学校であった怖い話
>五話目(岩下明美)
>D8

矢口さんは、考えが決まらなかったのね。
だから、少し様子を見ることにしたの。
電話のベルは鳴り続けた。
それでも放っておいたら、なんと受話器がガタガタ動き出したの。

彼女は悲鳴を押し殺しながら、逃げだそうとしたわ。
でも足を取られて転んでしまった。
見てみると、暗闇の中から伸びた無数の受話器が、彼女の足に絡みついていたのよ。

そして、公衆電話から外れた受話器が、彼女に向かって来たの。
低い声が漏れ続けていたわ。
「ついにつかまえた…我らの女王。
その美しい声を……」

悲鳴をあげようとした矢口さんを受話器がズルリと飲み込んだ。
そう、飲み込んだとしか形容できないわ。
こぶしほどの大きさの受話器から矢口さんの体半分が出ているの。
ふざけたシュールリアリズムという感じだった。

そして受話器は、ゆっくりと残りを飲み干したの。
後には、靴が片方だけ、落ちていたわ。
それっきり、彼女の行方はわからなかった。

大騒ぎになったけど、見つかるはずないわ。
彼女は電話の中にいるんだから。
なんでこんなことを知っているかって?
矢口さんから聞いたのよ。

電話をしていると、ときどきジジッと雑音が入るわよね。
あれは、矢口さんの合図なの。
運がよければ、その後彼女の声が聞こえるはずよ。

私、もう何回も彼女と話しているの。
坂上君も気をつけてごらんなさいよ。
さて、それじゃあ、これで終わるわね。
六人目はだあれ?


       (六話目に続く)