学校であった怖い話
>五話目(岩下明美)
>E7

伊達君のお父さんは、家の近くの交差点を指定してきたわ。
遠回りしているヒマも惜しいんでしょうね。
矢口さんは急いで着替えて、こっそり抜け出したのよ。

そこの交差点は、夜になると人通りも途絶えるような、そんな寂れた場所だったの。
ボンヤリとした街灯の下に、置き忘れられたような電話ボックスがポツンとあるだけの。
矢口さんはそこで、しばらく待っていたわ。
でも、伊達君のお父さんたちは来なかった。

先に行こうにも、矢口さんは病院の名前を聞き忘れていたのよ。
途方に暮れて立ち尽くしていたとき、向こうから誰か、歩いてくるのが見えたわ。
矢口さんは思わず、数歩前に出たの。

伊達君のお父さんたちだったから……。
でも、二人の顔色はひどく悪かった。
伊達君の具合は、そんなによくないんだろうか?
矢口さんが、そんな心配をするほどにね。

「あの、伊達君の様子は……」
そう話しかけると、お父さんはギロリと矢口さんをにらんだわ。
「ああ……君に会いたがってる。早く行ってやってくれ」
そういいながら、矢口さんの腕をつかんだ。
それがあまりにも強い力で、矢口さんは顔をしかめたの。

「痛いっ」
でも、お父さんは構いもしない。
どんどん矢口さんを引っ張っていこうとするのよ。
なんだかおかしい。
そう思って、矢口さんは抵抗したわ。

「離してください。伊達君はどこですか!」
「会わせてやると、いってるでしょう!」
お母さんは叫んで、ポケットからナイフを取り出したの。
お父さんも、腕を握る力を強めたわ。

「いつも部屋で勉強している守が、今日は電話の前から動こうとしない。聞けば、おまえの電話を待っているというじゃないか!」
お父さんは鬼のような形相になっていた。

「部屋に戻れといっても聞かん。カッとなって殴ったら、倒れて……頭から血が……!」

「伊達君を殺したの!?」
怖さも忘れて、矢口さんは叫んだわ。
「おまえのせいだ! おまえとつき合って、守は不良になってしまったんだ!
だから、おまえも死ね!!」

ナイフが突き出された。
矢口さんは必死にかわしたわ。
そして叫んだ。

「それじゃあ、ニセ電話で私たちを仲違いさせようとしたのも、あなたたちだったんですね!?」
「そんなもの知らないわ!」
伊達君のお母さんは、またナイフを振りかざした。

そのとき、懐中電灯の光が、パアッと三人を照らしたの。
「何やっているんだ!?」
パトロール中の警官だったわ。
助かった……。
矢口さんがため息をついたときよ。
お母さんが、振り上げたナイフを自分のお腹に突き刺したの。

バシューッと、ものすごい血が吹き出したらしいわ。
「守が死んだら……生きている甲斐がないわ……」
そうつぶやいて、伊達君のお母さんは倒れたそうよ。

お父さんは、もちろんその場で逮捕。
お母さんはなんとか命を取り留めたけど、まだ入院中らしいわ。

この話は、卒業した矢口さん本人に聞いたんだけど……おかしなことに気づかない?
……そう、ニセ電話をしたのが伊達君のお父さんとお母さんじゃないのなら、いったい誰なのかしら?

あの電話のせいで、伊達君の一家はメチャクチャになったっていうのにね……。
さあ、これで私の話は終わりよ。
次はとうとう六話目ね。


       (六話目に続く)