学校であった怖い話
>五話目(岩下明美)
>G8

なんだか怪しい予感がする。
矢口さんはそう思ったのね。
だから、学校に行かなかったの。
さっきの電話が本当に伊達君だったら、きっとひどく怒るだろう。
でも、不安の方が大きかったのよ。

それからしばらくして、また電話がかかってきたの。
矢口さんが取ると、電話の向こうの声がいったわ。

「なぜ、来ない……」
ってね。
でも、伊達君の声には思えなかった。
「どなたですか?」
矢口さんの問いかけにも答えず、電話の声は恨めしそうにいい続けるの。

「どうして来なかった……おまえを待っていたのに……」
気味が悪いでしょう。
だから、矢口さんは受話器を置こうとした。
でも、できなかったの。
受話器が手に、くっついていたのよ。

よく見ると、受話器から糸のように細かい触手がたくさん、伸びていたの。
それは、彼女の手に絡みついていた。

針のように鋭い触手の先が、プツッと指を刺したわ。
「痛い!」
ジワッと血がにじみでた。
すると、触手は嬉しそうに、一斉に鎌首をもたげたのよ!

そして、彼女の手に刺さって、皮膚の下にもぐり込もうとしたの。
逃げようとしても、肝心の受話器が離れないんですものね。

痛みに耐えかねて、彼女は悲鳴をあげたわ。
驚いて駆けつけた家族の前で、信じられないことが起こったの。

彼女の体が、うねうねと波打ち始めたのよ。
まるで、皮膚の下が液体になったようにね。
……いいえ、実際に液体だったのよ。

勢い余って、彼女の皮膚から飛び出した触手の先から、濁った白い汁が流れてきたの。
その汁が床に落ちると、ジュッという音がして煙が上がった。
そう、その汁は強い酸のように、ものを溶かしてしまう性質を持っていたのよ。

不思議なことに、皮膚は溶けなかったのね。
だから、皮膚の下の肉だけ溶けてしまって、彼女の体は水風船のようになった。
……ええ、もちろんその頃には、彼女は息絶えていたわ。

でも、そこまで彼女を追い続けた電話の相手は、いったい誰だったのかしら?
伊達君?
それとも、他の誰か?
……今となっては、誰にもわからないわね。

でも、それが誰でも……その正体は人間じゃないってことだけは確かよね。
さあ、私の話はこれで終わり。
六話目を聞きましょうか。


       (六話目に続く)