学校であった怖い話
>五話目(岩下明美)
>I8

「こんな夜にコソコソ会うみたいなまね、嫌なの。それに私、伊達君のこと呼び出したりしてない」
矢口さんは必死に訴えたわ。
ここで誤解を解かないと、もう仲直りできないんじゃないかと思ったのね。

「……そうか、わかったよ。もういい!」
ガチャリと、激しく受話器を置く音がした。
伊達君が一方的に切ってしまったの。

矢口さんは悩んだわ。
やっぱり行ったほうがいいかもしれない……。
そう思った。
でも、伊達君がどこで待っているのか、聞いていなかったのよ。

矢口さんは悩んで悩んで、眠れないまま夜が明けたの。
学校へ行くのが待ちきれなかったわ。
ほとんど駆け足だった。
一刻も早く、伊達君に会いたかったから。

校門の前で、走ってくる伊達君を見つけた。
驚いたことに、怒っているはずの伊達君は、まっすぐに矢口さんに駆け寄ってきたのよ。
「無事でよかった!」
伊達君の言葉に、矢口さんは目を丸くした。

「伊達君、怒ってるんじゃなかったの? 昨日の電話で……」
「そうそう、電話だろ。待ってもかかってこないし、こっちからかけても話し中だしさ。全然つながらないから、また例のヤツに邪魔されてるかと思ったよ」
伊達君は、ホッとしているようだった。

「え……それじゃあ、あの電話は?」
矢口さんがつぶやいたとき。
向こうの方が、急に騒がしくなったの。
泣きながら走ってくる女生徒もいて、辺りは騒然としたわ。

なんでも、裏門の公衆電話ボックスの中に、イヌの死体が押し込まれていたらしいの。
それも、薬品か何かで焼けただれた、無残な死体だったらしいわ。
その日から、矢口さんの家に、ニセ電話はかかってこなくなったの。

伊達君とも元通り、仲良くなったわ。
でもね、矢口さんはときどき考えるんですって。
あのとき、ニセ電話を信じて出かけたら、どうなっていたんだろうってね。

もしも、電話の人物が、学校の裏門を待ち合わせ場所に指定してきたら……。
電話ボックスの中で死んだのは、自分だったかもしれないと思うんですって。

彼女の考え過ぎかしら。
ねえ、どう思う……?
とにかくこれで私の話は終わりよ。
六話目をどうぞ。


       (六話目に続く)