学校であった怖い話
>五話目(岩下明美)
>J6

あら、駄目よ。
厳しい二人の親が、そんなこと許してくれると思う?
二人がとった方法はね、呼び出し音がなったらすぐ切り、もう一度かけ直す……ということだったの。
簡単だけど、確実よね。

「それじゃあ、電話のベルを三度鳴らしたら、一旦切るわ。そして、そのあとすぐに電話をかけるから。もし万が一、伊達君が電話をかけるときもそうしてね」
「オーケー、わかった。それじゃあ、今夜は電話の前でじーっと待ってるよ。必ず、電話してくれよ」

「ええ、もちろんよ」
「このことは、絶対に二人の秘密だからね。誰にもいっちゃだめだぞ」
「ええ」
そして、二人は指切りを交わしたわ。

その夜、矢口さんは自室のベッドの上で体育座りをして、九時になるのを待った。
電話を自分の足もとに置き、どきどきしながら待ったの。
そして、九時になると同時に電話をしたわ。

「……なんだ、話し中か」
電話は、話し中だったわ。
どきどきしていただけに、張り詰めていた糸が切れた感じ。
それで、受話器を置くと、少ししてもう一度電話をかけたの。

まだ話し中だった。
そのあとも、何度電話をかけたかわからない。
それでも、ずーっと話し中だった。

その時、矢口さんはふと思ったの。
昨日と一昨日は、自分のところに伊達君を騙る男から電話がかかってきた。

その時、彼は何度も電話をかけたけれど、彼女の家の電話はずーっと話し中だといっていた。
今は、全くその逆。
もし、彼の家でも同じことが起きていたら……。

矢口さんは、急に不安になったわ。
もしかして、自分の名前を騙る女がいて、彼女が伊達君に電話をかけているんじゃないかしら。

矢口さんは、必死になって電話をかけまくったわ。
それこそ、電話の呼び出し音が鳴るまで、かけまくってやろうと思ったの。

……それでも、電話の向こうから聞こえてくるのは、単調な発信音ばかり。

ふと時計を見ると、もう十時を過ぎていた。
その時!

電話のベルが鳴ったの。
電話のベルは、きっかりと三度だけ鳴って止んだわ。

「伊達君だ!」
矢口さんは、嬉しくて思わず声に出したの。
次のベルが鳴るまで、ものすごく時のたつのが遅かった。
まるで、時間が止まってしまったかのように。

矢口さんは、ためらわずに受話器を取ったわ。
そして、叫んだの。
「伊達君!」

受話器からは、重苦しい男の声が聞こえてきたわ。
「……なんでまだ家にいんだよ!
すぐ来てくれっていったのは矢口さんじゃないか!」
「え?」
電話の相手は、確かに伊達君だった。

でも、彼のいっていることは、矢口さんにはまた意味のわからないことだったわ。
「さっきの電話で、どうしても会いたいっていうから、なんとか抜け出してきたんだぜ。それなのに、何で矢口さんが家にいるのさ!」

……やっぱり、彼の家には、矢口さんの名前を騙る女から電話がかかっていた。
いったい誰が……、
何のために……?

「……どうするんだよ。来るのか?
それとも来ないのか?」
ふと、そんなことを考えていたら、苛立つ彼の声が聞こえてきたわ。

……ねえ、彼女、なんて答えたと思う?
1.行く
2.行かない