学校であった怖い話
>五話目(岩下明美)
>AI5

「嘘つき」
岩下さんが、ぴしゃりといった。
目が奇妙に光っている。
「ちゃんと正直にいわなくちゃ駄目。嫌いでしょう? 嫌いといったんでしょう?」

なんだ?
さっきの僕の返事のことをいっているのか?
何がなんだか、わからなかった。
でも、岩下さんの迫力につい、うなづいてしまった。
「……そうよ、それでいいの」
岩下さんは満足したように、話を続けた。

そう、彼は嫌いと答えたの。
彼女の気持ちが伝わらなかったのかしら?
……いいえ、そんなはずはないわ。
だって、彼女はいつも彼を見てた。
熱い眼差しでね。

一度でもそれに気づいたら、彼女の気持ちはきっとわかったはずよ。
それなのに、彼は嫌いといった。
それはつまり、彼女を拒絶したということよね。
彼女は傷ついたわ。
本当に彼を好きだったのね。
そして、好きだった分だけ、彼を憎いと思い始めたのよ……。

「ちょっ……ちょっと待ってください!」
僕はあわてて口を挟んだ。
なんだか、おかしなぐあいになっている。

岩下さんは、僕をまっすぐに見つめている。
昔のことなんていったけど、実は岩下さん自身の話じゃないのか?
それならば、その傷つけた少年っていうのは僕!?

けれど、岩下さんは片手をあげた。
僕が話そうとするのを止める。

「……まだ話は終わっていないわ。
いいたいことがあるのなら、私が話し終わってからにして」
冷ややかな声。
鳥肌が立った。
僕が何もいえなくなると、岩下さんは再び話しだした。

……女の子は、おまじないで彼を苦しめようと思ったのね。
そしてそれは、うまくいったのよ。
彼女の見ている前で、彼は激しい頭痛を訴えたの。
まるで頭蓋骨を叩き割られるような、強烈な痛みだったらしいわ。

ズキン。
頭が痛んだ。
同時にぎくりと背筋が冷えた。
岩下さんの話と、あまりにもタイミングが合いすぎていたからだ。
でも、気のせいに決まってる。

こんなことで頭痛が起きるなんて、信じられない。
必死でそう考える。
その間にも、頭痛はどんどん激しくなっていく。
岩下さんは、僕の様子に気づかないのか、何食わぬ顔で話を続けた。

……彼の頭痛は激しくなっていったの。
しまいには、立っていられないほどにね。
彼は、彼女の前でのたうちまわったわ。
でも、それを見て彼女の心境が変化した。

好きな人が苦しんでるのを見て、かわいそうになったのね。
彼に駆け寄って、おまじないを解いたの。

その瞬間、おまじないは強烈な呪いとなって彼女自身を襲ったわ。
男の子の苦しみの二倍、三倍もの頭痛だったらしいわ。

その結果、彼女は死んでしまったのよ。
でも、それでも満足だったの。
だって、愛する人をかばったんですものね。
きっと彼も、自分を覚えていてくれる……と思ったんじゃないかしら。

だけど、彼はその後すぐに、恋人を作ってしまったの。
同じクラスのかわいい子。
死んだ彼女のことなんか、すっかり忘れてしまったのよ。
……彼女は怒ったわ。
ある日、その男の子が死んでいるのが発見されたの。

自分で何度も、コンクリートの壁に頭を打ちつけたらしいわ。
壁も床も、一面真っ赤に染まっていたって。

それからというもの、この学校には彼女の霊が出るようになったの。
普段は何もしない、無害な霊なのよ。
でも、年下の男の子に振られた女の子がいると、来てくれるの。
代わりに仕返ししてくれるのよ。

なんでも、例のおまじないをやって男の子を苦しめてくれるらしいんだけど……。
どうしたの、坂上君?
なんだか苦しそうねえ。
頭痛はどんどん激しくなっていた。
もう、立っていられない。
机に突っ伏した僕の肩を、岩下さんが抱きかかえた。

「辛いの? 頭が痛いのねえ……やっぱりこの話は本当だったんだわ」
静かに、歌うように岩下さんは話し続ける。
でも、もう耳に入らない。
頭が割れそうだ。

「かわいそうにね……でも、私死ぬのは嫌。あなたをかばってなんてあげない。あなたも私を振ったんだしおあいこよね……」
岩下さんの声が遠くなる。

このまま死んでしまうんだろうか?
僕が何をしたっていうんだ……。
その疑問を口に出せないまま、僕は混沌とした意識の渦に飲み込まれていった……。


そしてすべてが終った
              完