学校であった怖い話
>六話目(新堂誠)
>B5

僕は、黒い欲求にかられた。
新堂さんのいうことを聞くなんていったけど、甘い誘惑にはうち勝てない。
この本さえあれば、完全犯罪ができる。
それを試さない手はない。

ふっふっふ……。
僕はニヤリと笑い、しっかりと本を抱きかかえ、そろそろと歩き……。
ん?
何だ?
頭に、悲しいメロディーが浮かんでくる……。

しまった!
この本は、抱きかかえると効力がでてくるんだった!!
でも、まあいいか。
ここで効果を試してから、完全犯罪に移れば……。
僕は、すらすらと歌い始めた。

高い音域も、自然にでてきて気持ちがいい。
驚いた。
この本は、本当に……。

机の所にいた人達が、同時に立ちあがった。
……眠らないぞ?
これは一体……。
「うわーーーーっ!!」
人々が、近くの壁に頭をぶつけ始めた!

自分の頭を、自分で壁に叩きつけている。
何度も、何度も。
「や、やめてください!!」
僕は思わず駆け寄った。

あっ……。
本を落としてしまった!
でも今はそれどころじゃない。
ぶつけた頭から血を流している人もいる。
なにが、眠りの呪いだ。
これじゃ、永遠の眠りにつかせる呪いじゃないか……。

「だ、大丈夫ですか?」
僕が駆け寄ると……。
「う……頭が痛い……」
「あら……? 私、一体……!?」
本の呪いにかかった人達が、正気を取り戻し始めた。
僕が歌をやめたからだろう。

「坂上! どうした!?」
新堂さんが、飛び込んできた。
「今、お前の叫び声が……ああっ、呪いの本を落として! だめじゃないか!!」
彼は呪いの本を急いで拾い、ぎゅっと抱きかかえ……。

「新堂さん!! だめです! それは……」
僕の言葉は、間に合わなかった。
新堂さんは、歌い始めてしまったのだ。
あの、悲しいメロディーを……。

そして僕は、何も考えられなくなった。
ただ、壁に自分の頭を打ちつけていた。
そうするしかなかった。
痛みは感じない。
それどころか、何だかとても気持ちがよかった……。

僕の後ろからも、何かの衝撃を感じた。
誰かが、僕を殴っている?
なぜ、僕を殴る?
僕は、自分で自分を痛めつけているというのに。
なぜ、これ以上殴られなければならない?

……まあ、どうでもいいか。
今僕は、とても気持ちがいいのだから……。
目の前の壁に、まだ血は付いていない。

もっと強くぶつけないと、僕の頭から血は出ないんだろうか。
もう少し勢いよくぶつけてみようか。
それとも、どこか尖った所で試そうか。
そんなことを考えながら、僕の意識はじわじわと薄らいでいった……。


       (七話目に続く)