学校であった怖い話
>六話目(荒井昭二)
>C8

……そうですか、聞きたいんですか……。
好奇心旺盛なのもいいですけれどね……。
あなたが聞きたいというのならば、話しましょう。

「……実は。この生けにえも、来年で終わるんだ。来年、生けにえになる奴が最後なんだよ。人形が、そういっているからね。……そうだよね」
そういうと、ふっと僕から顔を離し僕の左肩に目をやったんです。

僕は、その方向からわざと目を背けました。
何もいないはずの左肩が、ずっしりと重かったような気がしました。
そこに、人形が顔でも乗せていたのでしょうか。
そして、金井君は、再び僕に顔を近づけました。

「……そうだって。それで、君に確認してほしいんだよ。間違いなく、そいつがこの学校にいるかどうかを。
いれば、問題ない。もう、この学校も数々の呪いから解き放たれるんだ。この学校に起こった不思議な事件もなくなると思うよ。そいつの名前は……………………」

僕は、聞きました。
その人の名前を。
その人が今年、人形の犠牲になってくれれば、それで終わるんです。

その人は、この学校にいましたよ。
だから、もうすぐ、起きるんです。
最後の生けにえの儀式が。
その人はですねえ、……………………この中にいるんですよ。
今、ここに集まっている人の中に。

これ以上は、僕の口からはいえません。
金井君が僕に持ちかけた相談とは、その人物を捜すことだけですから。
金井君は、その直後に死にましたよ。
心臓発作でした。

僕の左肩辺りをつかむように両手を伸ばすと、そのまま口をぱくぱく開けて絶命しました。
ただ、彼の手には何本かの黒い髪の毛が握られていました。
僕の髪ではありません。
金井君は、僕の髪に一度も触らなかったのですから。

それは、見えないはずの人形の髪の毛……?
僕には、わかりません。
最初から握っていたのかもしれませんしね。

金井君の死について、僕は疑われませんでした。
先生たちは、誰もが人形の話を知っていましたから。
金井君の死因は、心臓発作という結論で誰もが処理しました。

……これで僕の話は本当に終わりです。
僕は、皆さんが、その人形を見ないことを祈っています。
でも、誰か一人は犠牲になってくれないと、生けにえは終わらないんですが。

……ついに、七人目は現れませんでしたね。
ということは、この会は終わりですね。
それでは、僕は先に帰りますので、失礼します。

……そういうと、荒井さんは逃げるように席を立った。
「あっ……!」
僕が荒井さんを引き止めようとすると、その手をすり抜けるようにして、足早に部室を出ていった。

……荒井さんは、なんて嫌な話をしてくれたんだ。
僕は、残った人たちを見回した。
みんな、顔を伏せている。
おびえているようでもあり、腹を立てているようにも見えた。

人形の生けにえだって?
そんな話、信じられない。
そんなことあるわけない。
そんな恐ろしいこと……。


       (七話目に続く)