学校であった怖い話
>六話目(細田友晴)
>E14

そうだよね。
君はトイレに行きたくない人なんだもんね。
……わかったよ。
よーくわかった。
これほどお膳立てしてやっても、まだトイレに近寄ろうとしないなんてね。

実は、ずっと君には注目していたんだよ。
君って、一部では有名なんだよ。
知らなかった?
一年生が話してたのを聞いたんだ。
君は絶対にトイレに行かないってね。

そんな馬鹿なって思ったよ。
でも、おもしろそうだからね。
それから君に興味を持っていた。
そうしたら……本当に行かないんだね、君って。

君のクラスメートに聞いたけど、一日に一回も行かないっていうじゃないか。
いくらなんでも、不自然だよ。
今だって、君の企画のためなのに、トイレにはいかないなんていい出すしさ。

……でもね、僕はわかったよ。
君、トイレが嫌いなんだろう?
トイレのあの臭いや空気、それとも使っているタイルか何かが苦手なんだね。
それでわかったんだよ。
君は人間じゃないって。

人間だったら、トイレには必ずお世話になるからね。
そんなに毛嫌いするはずがないんだよ。
君はなんなんだい?
エイリアンかな?

細田さんはそういって、ポケットからナイフを取り出した。
パチンと刃が飛び出す。
小さいけれど、鋭そうな光。
「うまく化けたものだね。でも、僕の目はごまかせないよ」
近寄ってくる。
ナイフは構えたままだ。

「犬や猫は試したけど、エイリアンの体ってどうなっているのかな」
なんだって?
この人、気は確かなんだろうか。
僕がエイリアン?
トイレに行かないくらいで、そんな風に思われていたなんて。

本当のことをいえば、まるっきり行かないわけではなかった。
体質的に、普通の人よりも回数が少ないだけなのに……。
いや、今はそんなことを議論している場合ではない。
彼は何をするつもりなんだ!?
僕の表情を読んだのだろう。
細田さんがニッと笑った。

「君を解剖するよ。大丈夫、すぐ終わるからね」
その目は正気ではなかった。
「だ……誰かっ!」
思わず悲鳴が口をついて出た。
「助け……」

いい終わるより早く腕が伸びて、僕は突き倒された。
その上に、細田さんが馬乗りになる。
「大丈夫、大丈夫」

サッと、腹に熱い筋が走った。
遅れて、息が詰まるほどの痛み。
皮膚が引っ張られるような感じ。

熱いのか、痛いのかわからない。
かすむ視界の中で、緑色の返り血を浴びた細田さんが、ニッと笑った。
「やっぱりね」

僕は自分を罵った。
任務は失敗だ。
こんなドジをするなんて……。
遠い異星で果てるのを無念に思いながら、僕はゆっくりと目を閉じた。


そしてすべてが終った
              完