学校であった怖い話
>六話目(細田友晴)
>G18

「僕は家族を捨てられない。ごめんなさい、細田さん」
こうとしか、いえなかった。
細田さんには悪いと思う。
でも、だからといって身内を切り捨てる勇気はなかった。

細田さんは真っ青だ。
もう、言葉も出ないらしい。
しかし、その時、少女が軽く肩をすくめた。
「もういい」
そういうと、一瞬めまいがした。

気づくと僕は、さっきまでと同じトイレの床の上に立っていた。
細田さんも、隣りに立って、きょとんとしている。
「そいつの命も、おまえの家族の命も、もういらん。同じくらい貴重な物を、手に入れたからな」
謎の言葉を残し、少女は二番目のトイレの中に消えた。

そう、文字どおり消えてしまったのだ。
追いかけてのぞき込んでも、気配さえもなくなっていた。
呆然としていた僕の首が、その時、いきなり締め上げられた。
「ほ……そだ……さん?」
鬼のような形相の細田さんがそこにいた。

「よくも僕を見捨てたな。君のこと友達だと思っていたのに」
容赦なく締めつけられ、意識が薄れてきた。
手を引きはがそうとしても、力が出ない。

ゆっくりと死の淵に沈み込みながら、やっと僕は、仮面の少女の言葉を理解した。
彼女が手に入れた、命と同じくらいに大事な物……。
それは、細田さんの理性と、僕たちの間の信頼のことだったのだと。


そしてすべてが終った
              完