学校であった怖い話
>六話目(細田友晴)
>O12

彼は、一階に戻ることにした。
やっぱり、教室から近いトイレが、一番有望だものね。

行ってみると、トイレからは明かりが漏れていた。
やっぱり、ここだったんだ。
彼はトイレをのぞき込んだ。

でも、そこには誰もいなかったよ。
代わりに、壁に大きな文字が書き殴られていた。
乱暴な字で、「三階に行け」ってね。
こんなことをするのは、あの二人に決まっている。

やっぱり、自分たちを脅かそうとしているんだ。
彼は少し腹を立てたよ。
それから、三階へ行くことに決めた。
階段を上っていくと、上の方から忍び笑いが聞こえるじゃないか。

あいつらだ。
文句をいってやらなければ気が済まない。
あと残り何段かを、彼は一気に駆け上がったんだ。
そして叫んだ。
「いい加減にしろっ!!」

……でも、反応はなかった。
今までしていた人の気配も、きれいさっぱり消えている。
逃げる物音もなかったのにね。

そのとき初めて、彼は自分が三階まで来ていたことに気づいたんだ。
そういえば、この階のトイレには、花子さんがいるんだっけ。
彼は、全身に鳥肌をたてた。

花子さんは、その時の気分によって、いる場所が違うらしいんだよ。
ふだんは、奥から二番目の個室にいるらしいんだけどね。
違う個室にいる時もあるから、安心はできないんだよ。
トイレに入るだろ。
すると、誰もいないはずのトイレなのに、個室の中から女の子の泣き声が聞こえてくる。

それで、ノックを三回すると、中からもノックが三回返ってくる。
今度は、ノックを一回するんだ。
すると、もう一度ノックが一回だけ返ってくる。
そして、
「入ってますか?」
って聞くと、答えはないんだ。

答えがないから不思議に思ってドアを開けようとすると、鍵がかかっていない。
思い切ってドアを開けると、中には誰もいないのさ。
それで変に思ってドアを閉じるだろ。
すると、今度はドアの向こうからノックしてくるんだ。

三回、こん……こん……こん……てね。
けれど、誰もいない。
それで、不思議な気配を感じて、ふと上を見ると……。
トイレのドアの上にある隙間から、青白い顔をしたおかっぱ頭の女の子が、じっとこっちを見ているんだよ。

それで、彼女に見られたら、そいつは三日以内に死ぬって噂なんだ。
それが、うちの学校の旧校舎にまつわる花子さんの話だよ。
彼は、そんなことを思い出してしまってね。
でも、大丈夫。
花子さんが現れるのは、女子トイレだからね。

彼に害はない。
まさか、いなくなった二人が女子トイレにいるとも思えないしね。
三階に出て、ふとトイレのほうを見てみると、三階のトイレに電気はついていなかった。
そうなると、彼らはいったいどこのトイレに行ったのか……。

それに、あの悲鳴は何だったんだろう。
彼は一人でいるのが、急に怖くなってね。
とにかく一人ではどうにもならないと自分にいい聞かせて、逃げようとしたんだ。
その時だった。

突然、三階のトイレの電気が、パァッとついたんだよ。
……誰かいる。
彼は、思った。
きっと、あの二人に違いない。
やっぱり、あの二人が脅かそうとしていたんだ。
自分のことを散々怖がらせて、恐怖心を絶頂まで高めるつもりなんだ。

そう思ったら、逆に怖くなくなってね。
あの二人をとっちめてやると固く心に誓うと、胸を張ってトイレに近づいていったのさ。
いつ驚かされても、逆に笑ってやろうと考えながらね。

トイレには誰もいなかった。
でも、個室のドアは全部閉まっていたのさ。
だから、この中のどれかに、彼らがいるはずだ。
ドアは四つあった。

どのドアから開けたと思う?
1.一番奥のドア
2.奥から二番目のドア
3.奥から三番目のドア
4.一番手前のドア