学校であった怖い話
>六話目(細田友晴)
>Q11

彼はまず一階のトイレを捜そうとしたんだよ。
当然、この教室から一番近いトイレに行くのが普通だからね。
でも、遠くから見てもトイレに明かりはついていなかった。

それで近づいてみると、階段の上のほうから、何やら話し声が聞こえるじゃないか。
ぼそぼそしていて聞き取りづらいけれど、確かにそれは人の話し声だった。

そして、彼は階段を上ったのさ。
自分の足音だけが響く世界は、あまり気持ちのいいもんじゃない。
今頃、あの三人は先生を呼びに行ってくれたんだろうか。
そんな他人の心配をしながら、彼は自分の中に忍び込んでくる恐怖を追い払おうとしたのさ。
声は、三階から聞こえているようだった。

念のため、彼は二階のトイレも覗いてみたけれど、そこも電気はついていなかった。
やっぱり三階にいる。
三階で、あの二人が何か話している。
話しているとしたら、何を話しているのか決まっている。
助けにきた仲間を脅かす相談だ。

そう思うと、彼は少しだけ腹がたった。
自分もあの三人と一緒に職員室に行けばよかったという後悔が、少しだけ胸をかすめた。
けれど、せっかく来たんだから、逆に脅かしてやろうと考えたのさ。
ゆっくりと、ゆっくりと階段を上った。

話し声は、階段の上から聞こえてくるんだ。
階段を上る音は、どんなに足音を立てないように歩こうとも消せるもんじゃない。
足の裏が段を踏むたびに木がしなり、重苦しい音を辺りに響かせてしまう。
だから、逆に彼は神経を耳に集中したんだ。

そして、彼らの位置を確かめようとしたのさ。
周りが暗いだけに、耳に神経を集中させることは簡単だった。
そして、自分の足音に紛れて聞こえる話し声から、位置を確認した。
彼らは、三階へと続く階段を上り切った壁の陰にいる。

そう判断して、三階が近づくにつれ、身構えたんだ。
そして、上り切る一歩手前で立ち止まると、大きく息を吸い込んだ。
「わっ!」

そして、大声を出したんだ。
……けれど、そこには誰もいなかった。
いるはずの二人は影すら見えず、今まで聞こえていた話し声もぴたりと聞こえなくなっていた。

彼は、その時改めて恐怖を実感したんだよ。
そして、思い出したんだ。
旧校舎の三階のトイレに出るという花子さんの話をね。

花子さんは、その時の気分によって、いる場所が違うらしいんだよ。
ふだんは、奥から二番目の個室にいるらしいんだけどね。
違う個室にいる時もあるから、安心はできないんだよ。
トイレに入るだろ。
すると、誰もいないはずのトイレなのに、個室の中から女の子の泣き声が聞こえてくる。

それで、ノックを三回すると、中からもノックが三回返ってくる。
今度は、ノックを一回するんだ。
すると、もう一度ノックが一回だけ返ってくる。
そして、
「入ってますか?」
って聞くと、答えはないんだ。

答えがないから不思議に思ってドアを開けようとすると、鍵がかかっていない。
思い切ってドアを開けると、中には誰もいないのさ。
それで変に思ってドアを閉じるだろ。
すると、今度はドアの向こうからノックしてくるんだ。

三回、こん……こん……こん……てね。
けれど、誰もいない。
それで、不思議な気配を感じて、ふと上を見ると……。
トイレのドアの上にある隙間から、青白い顔をしたおかっぱ頭の女の子が、じっとこっちを見ているんだよ。

それで、彼女に見られたら、そいつは三日以内に死ぬって噂なんだ。
それが、うちの学校の旧校舎にまつわる花子さんの話だよ。
彼は、そんなことを思い出してしまってね。
でも、大丈夫。
花子さんが現れるのは、女子トイレだからね。

彼に害はない。
まさか、いなくなった二人が女子トイレにいるとも思えないしね。
三階に出て、ふとトイレのほうを見てみると、三階のトイレに電気はついていなかった。
そうなると、彼らはいったいどこのトイレに行ったのか……。

それに、あの悲鳴は何だったんだろう。
彼は一人でいるのが、急に怖くなってね。
とにかく一人ではどうにもならないと自分にいい聞かせて、逃げようとしたんだ。
その時だった。

突然、三階のトイレの電気が、パァッとついたんだよ。
……誰かいる。
彼は、思った。
きっと、あの二人に違いない。
やっぱり、あの二人が脅かそうとしていたんだ。
自分のことを散々怖がらせて、恐怖心を絶頂まで高めるつもりなんだ。

そう思ったら、逆に怖くなくなってね。
あの二人をとっちめてやると固く心に誓うと、胸を張ってトイレに近づいていったのさ。
いつ驚かされても、逆に笑ってやろうと考えながらね。

トイレには誰もいなかった。
でも、個室のドアは全部閉まっていたのさ。
だから、この中のどれかに、彼らがいるはずだ。
ドアは四つあった。

どのドアから開けたと思う?
1.一番奥のドア
2.奥から二番目のドア
3.奥から三番目のドア
4.一番手前のドア