学校であった怖い話
>六話目(細田友晴)
>T11

そう、彼らも廊下を調べたよ。
空間が歪んでいる場所を見つければ、そこから脱出できるかもしれないからね。

それこそ目を皿のようにして、壁や床を探って歩いたんだ。
「あっ、見て!」
女の子が廊下の一角を指さした。

正面の壁に、ヒビが入っていたんだ。
ただの壁の割れ目なんかじゃない。
ヒビの向こうからは、薄いもやのようなものが入り込んできているんだ。

向こうを見通すと、緑の平原が見えるじゃないか!
彼らは、ヒビの周りを引っかいてみたよ。
ボロボロと、かけらが落ちた。
壁は、あっけないくらい簡単に崩れてしまったんだ。

そして、目の前に広がるのは、やっぱり大平原だった。
「助かったわ!」
そう叫ぶと、女の子たちは草の上に駆け出していったよ。
それから彼を振り向いた。
「早くいらっしゃいよ!」
でも、彼は踏み出せなかった。

何かおかしいと気づいていたのさ。
見渡す限りの草原は、日本だとも思えなかったしね。
彼が戸惑っていると、壁が増殖を始めた。
崩れたところが、自動的に盛り上がってきたんだ。
見る見るうちに、壁の穴は半分くらいになった。

引っかいてみても、さっきまであんなにもろかった壁が、今はまるで鉄板みたいに固いんだ。
「早く、こっちへ来て!」
女の子たちが騒ぎだした。
でも、その間も穴は塞がっていく。

そしてとうとう、元のヒビに戻ってしまったんだ。
彼は一人で、こちら側の世界に取り残されてしまったのさ。
しかも、歪んだ空間にね。
でも、結局女の子たちも行方不明のままだったよ。
せっかく逃げ出したのに、ヒビの向こう側も歪んだ空間だったのかもしれないね。

それから彼はどうしたかって?
行方不明のままだよ。
ついでに、他のみんなもね。
もしかしたら、まだこの中にいるのかも。
……なーんてね。

細田さんは話を終えた。
僕は思わず、口を開いた。
「そんな話を、わざわざここでするなんて。悪趣味ですよ」
そして立ち上がった。
「僕は部室へ戻りますから」
本気だった。

ドアを開けて廊下に出る。
後ろで細田さんが何かいっているようだが、構うものか。
廊下の端まで歩いて、角を曲がる。
……目の前には、長い廊下が続いていた。
振り返ると、同じような長い廊下が続いている。

どういうことだ?
細田さんの話が、本当になったのか?
だけど話では、後ろには教室のドアがあったはずだ。
それなのに……。
僕はあわてて、元来た方へ駆け出した。

走っても走っても、教室のドアは現れない。
こんな馬鹿な!
さっき見たときは、ほんの十メートルくらいの廊下だったのに。
僕も、歪んだ空間に入り込んでしまったんだろうか?

そんなこと、認めたくなかった。
僕は走り続けた。
いつかはドアを見つけられるかもしれない。
だから走る。

走る。
走る。
走る。
気づくと、いつの間にか走る僕の横を、併走する影があった。
振り向く。

半ば白骨化した男が、歯をむき出して走っていた。
その目が僕を見る。
それが誰だか、僕は知っていた。
さっきの話の彼だ。
長い年月を、死んで骨になってまで走り続けてきたのだ。

彼の目は、なんとなく嬉しそうだった。
僕という仲間ができたのだから、当然だ。
僕と彼は、永久に続く廊下を、ひたすら走り続けるのだろう。
歪んだ世界の中を。


そしてすべてが終った
              完