学校であった怖い話
>六話目(細田友晴)
>AS5

誰なんだろう?
そう考えた僕は、そのとき重大な事実に気づいた。
旧校舎の床は腐りかけた木造だ。
あんなに足音が響くはずがない。
けれど、カツーン……カツーン……と、足音はだんだん大きくなってくる。

ここに入って来ようとしているのか?
恐怖で悲鳴をあげそうになった。
でも、やっぱり声は出ない。
なんだか息苦しいような気がしてきた。
足音は大きくなる。

カツーン……カツーン……カツーン……。
とうとうドアの前まで来た。
僕は固く目を閉じる。
最後か!?
…………けれど、ドアは開かなかった。

何事もなかったように、足音は遠ざかっていく。
カツーン……という張りつめた音が、廊下の向こうに消えていくのだ。
助かった。
今のヤツの正体はわからないけれど、とにかく僕を狙っているんじゃなかった。

ホッとして肩を落とした瞬間、不意に体が動くようになった。
両手を動かしてみる。
固いゴムみたいだった舌にも、感覚が戻っている。
僕は思わずつぶやいた。

「なんだったんだ……?」
軽く首を振って、立ち上がる。
なにげなく後ろを向いた。

そこにヤツがいた!
僕の肩から十センチほど離れて浮いている、二つの目玉。
黒目が僕を見つめている。
悲鳴をあげることも忘れて、僕はヤツと見つめあった。

くらり、とめまいがした。
足から力が抜ける。
また、体の自由が利かなくなったみたいだ。
フッと気が遠くなった瞬間、目玉が僕の口に飛び込んだ。

固いゼリーのような、ヌルヌルした物体が舌の上をすべる。
なまぐさい臭い。
思わず、吐き気がした。
でも、目玉はそんなことお構いなしで、グイグイと入ってくる。
声が出ない。
息が苦しい。

苦しくて涙が出た。
そしてとうとう、なめらかな目玉がのどの奥に押し込まれた。
……不思議と、もう気分は悪くなかった。
頭が真っ白になったような、眠くてしかたないような気持ちだった。
このまま寝てしまおうか。

僕は床にうずくまりひざを抱えた。
誰かの声がする。
眠りなさい……眠りなさい……。
その体は、私がもらうから……。
……誰の声?

僕は、この学校に巣くう魔物の罠にかかったんだろうか?
……でも、もういい。
僕は眠いんだ。
このまま眠るんだ…………ずっと。
眠り込む一瞬、何か邪悪な意識を体の中に感じた。

でも、それがどういう意味なのか……。
僕にはもう、考える力もなかった。


そしてすべてが終った
              完