学校であった怖い話
>六話目(岩下明美)
>A7

「じ、実は殺したい人がいるとか……」
彼女は、口ごもったわ。
すると藤臣君は口をあんぐり開けてね。
「岡崎さん、何考えてんの?」
彼女の肩を、たたいたの。

でも……。
そういいながらも、瞳の奥に怪しい影を宿していたのよ。
「ああもう、バカらしいな。きっと、今のかみなりも偶然だよ」
お願いがあるなんていっておきながら、彼はいきなり一人で歩き出したわ。

「ま、待って!!」
岡崎さんは、慌てて彼を追いかけた。
そして、謝ったの。
変なことをいってごめんなさいと。
それから、何日かして……。

岡崎さんのルーベライズは、なくなってしまったの。
なくなったというか……。
要するに、盗まれたのよ。
それは、別に意外なことでもないわよね。
彼女が、ルーベライズという珍しい宝石を持っていたことは、有名だったんだから。

誰かが、盗もうとすることはあるでしょう。
岡崎さんは、かみなりの件以来、ルーベライズを鞄に入れっぱなしだったの。
それが、とても怖い石のように思えていたから。
そうしたら、すぐに盗まれてしまったのよ。

いつも肌身離さず付けておくべきだったと、彼女は後悔したわ。
そして、藤臣君を避けだしたの。
ルーベライズをなくしてしまったことが、後ろめたくてね。
そんなある日。

岡崎さんの家に、藤臣君から電話がかかってきたの。
最近、二人の仲がぎくしゃくしているのが嫌だといってね。
……岡崎さんは、考えたわ。
彼に、謝ろうと。
石のことを、正直にいおうとね。

二人は、夜の学校で待ち合わせたわ。
そして岡崎さんは、藤臣君にこう話したの。
「藤臣君……ごめんなさい。
実は、ルーベライズをなくしてしまったの……」
岡崎さんは、正直にいったわ。
すると……。
「きやああああぁっ!!」

彼女は激しい胸の痛みを覚え、血を吐いて倒れてしまったの。
「ぐぼっ……がぶっ……」
彼女の口からは、血に交じって真っ黒な液体が流れ落ちたわ。
……藤臣君は、笑っていた。
「ふふ、岡崎さん。
ルーベライズは僕が盗んだんだよ。
ルーベライズの力は、僕と君しか知らないよね。

だから僕は、君の口を封じることにしたんだよ。
僕はこれから、いい大学を出て、いい就職をするんだ。
石の力でね。
石の力を使ったら、代償に何か恐ろしいことが起こるかもと思っていたけれど……。
それは、大丈夫そうだね。

テストの時も、天気を変えた時も、願いごとをした君に、災難は振りかからなかったからね。
僕の、本当の目的を試させてもらうよ。
岡崎さん。
僕は、君を殺したいんだ。
君は、ルーベライズを贈るまで僕には見向きもしなかったよね。

僕の気持ちを知りながら、冷たくあしらっていたよね。
それが、どうだい。
宝石を送った途端に、恋人気取りかい?
そんな女は、いらないよ。
僕は、ルーベライズの力で、もっとすてきな彼女をつくるよ……」

藤臣君の目は、どこを見ているのか分からないくらい虚ろだったわ。
「ぐ……があっ……」
岡崎さんは、うめき声をあげながら何度も地面を引っ掻いた。
地面には、彼女が口から出した、血と汚物の池……。
それらは、彼女の爪や指先に、ネトネトと絡みついたの。

それでも、彼女は何度も地面を引っ掻いたわ。
這いずり回る為に。
藤臣君に、手を伸ばす為に……。
「や、やめろ……!!」
藤臣君は恐怖でよろめき、彼女の汚物で足を滑らせたわ。

そしてルーベライズを落としたの。
岡崎さんは、それを素早くつかんだ。
そして……。
「う……わあーーーっ!!」

翌日、岡崎さんの死体が、校門で発見されたわ。
彼女の死体の横には、藤臣君の死体があったそうよ。
岡崎さんの手には、ルーベライズのペンダントが握られていた。
彼女は、最後の力を振り絞り、ルーベライズにお願いしたのね。
彼に、復讐をしたいと……。

二人の死体は、きれいなものだったわ。
岡崎さんが吐いたはずの血や汚物は、跡形もなくなっていた。
警察がきて色々調べていたけれど結局二人は自殺したんだろうということになったの。
二人は、まるで心中でもするように、よりそって死んでいたからね。

みんな、こういったわ。
あの二人は、ルーベライズによる告白も、心中もドラマチックだったって。
藤臣君は財閥の御曹司だから、身分違いの愛で苦労していたんだろう。
そんなことをいう人もいたわ。
それで、岡崎さんは、死ぬまで幸せだったなんて噂がたったのよ。

十代の未熟な心が起こさせた過ちだといって、校内会議も行われたわ。
でも、真相は違うの。
彼らが死んだのは、石の力……。
運命を操る石の力が、人の心を惑わせたせいなの……。

話を、大川さんに戻しましょうか。
大川さんの家のチャイムは、何度も鳴り続けたわ。
彼女が、すぐに玄関に出なかったからね。
「宅配便です!! 宅配便です!!」
若い男の声。
ドアを叩く音。
大川さんは、ドアを開けたわ。

ルーベライズが呪われているなんて、きっとウソだと自分にいいきかせながら。
うふふ……。
大川さんのもとに届いたルーベライズは、確かに呪われていたの。
だって、岡崎さんが死んだ時の怨念が取り付いていたんだもの。
彼女が死に際にした願いが、石に強く残っていたんだもの。

彼女は、藤臣君に対し、こう願ったわよね。
「殺してやる……」
だから、大川さんもその被害にあったわ。
なんでも、ルーベライズを届けた若い男に殺されたそうよ。
殺した方の男性も、かわいそうよね。

ルーベライズを運んだだけで、思わぬ事件を起こすことになってしまったんだもの。
彼は、警察に連れて行かれたそうよ。
そういうのも、運命なのかしら。
運命ってなんなのかしらね。
ねえ、坂上君……?

わたしの話は、これで終わりよ。
……それにしても、七人目はずいぶん遅いわね。
さあ、これからどうしましょうか……?


       (七話目に続く)