学校であった怖い話
>六話目(岩下明美)
>E9

うふふ……。
誰もがそう思うかもしれないわね。
いえ、幸せになれないというよりもそんな人を幸せにしたくないという気持ちが強いんじゃなくて、坂上君?
でも、彼女は幸せになったのよ。
岡崎さんのときとは大違いだわ。

だって、しょうがないもの。
岡崎さんの場合は、ルーベライズが幸せを呼ぶパワーストーンだって知らなかったわけでしょ。
だから、どう使っていいかわからなかった。
たまたま、彼女の願いを聞いただけに過ぎない。

でも、大川さんの場合は違うわ。
たとえそれが悪魔の石であったにせよ、使い方を間違えなかったの。
だから、幸せにならないわけがないわ。

まず、素敵な恋人ができた。
彼女、そこそこにきれいだったから別に不思議じゃないわ。
石の力を借りなくても、恋人ぐらいできたでしょうに。

でも、そういう人って結構いるものね。
ふだんは何もできないくせに、ちょっとした自己暗示をかけただけで急に性格が変わってしまう人。
大川さんも、その類ね。

ルーベライズの石を持っているという自己暗示で、何にでも自信がついてしまうの。
でも、それが限度を超えるとどういう結果になってしまうか……。
知らないって怖いことだわ。

彼女はすぐに別れたわ。
せっかく素敵な恋人ができたのにそれで満足できなかったの。
自分にはルーベライズがある。
だから、もっと素敵な恋人がふさわしい。

早い話が、飽きたのよね。
石に頼んだら、すぐに別れることができた。
もっとも、それだけ傲慢な性格になった彼女のことだから、何も石に頼まないでも、すぐに破局はやってきたでしょうけど。

お金も手に入ったわ。
多額の保険金が。
父親が死んで、その保険金が入ったの。
誰も、彼女が殺したなんて疑わなかったわ。
それどころか、彼女に同情する始末。
みんな、馬鹿ね。

彼女はどんどん幸せになっていったわ。
望みがかなってね。
でも、彼女の気持ちは決して満たされることはなかった。
だって、常に最高の幸せを求めているんですもの。
満たされるわけないわ。

それで、思ったの。
自分は不幸だって。
ルーベライズを持っているのに、どうして自分が幸せになれないのか悔しくてたまらなくなった。
そして、彼女はいい方法を思いついたわ。

そして、石に頼んだわ。
その願いが何だかわかる?
簡単よ。
自分が幸せになれないんですもの。
彼女は、ルーベライズを握りしめるとこういったの。
「どうか、みんなを不幸にしてください」

……今、世界中でルーベライズを持っている人が何人くらいいるのかしらね?
もし、彼女の望みを断ち切るなら、ルーベライズを持っているどこかの誰かさんが、こういうしかないでしょうね。
「世界中のみんなを幸せにしてください」
でも、それって起こりえるかしら?

考えてみなさいよ。
とても普通では手に入らないようなルーベライズを持っている人たちが、みんなの幸せなんか願うかしらね。
きっと、大川さんと同じ願い事をするんじゃないかしら。
そしてその思いが強ければ強いほど、みんな不幸になっていくのよ。

……ふふふ。
他人の不幸は蜜の味っていう言葉があるでしょう?
みんなが不幸になったら、結構それはそれで幸せかもしれないわよ。
私は、自分に害がなければそれでいいから。
……坂上君。
あなたも気をつけることね。

こんなところで怖い話を聞いているうちにも、周りではいろんなことが起こっているのよ。
大川さんが、うちの学校にいることを忘れないでね。
あなたに、どんな不幸が訪れるか、すべては彼女次第なんだから。
うふふふふ……。

ついに、七人目は来なかったわね。
これでこの集まりも終わりかしら。
残念ね、何も起こらなくて。
何か起きそうな気配はあったんだけれど……。
まあ、いいわ。
私の勘違いということもあるし。
それじゃあ、皆さん。
お開きにしましょうか。


       (七話目に続く)