学校であった怖い話
>六話目(福沢玲子)
>A6

彼女は、表に出てふらふらと歩き回ったわ。
そして、ノラ猫を見つけたの。
「おいで……おいで」
彼女はノラ猫に近付こうとしたわ。
でも……。
「あっ……待って……」
ノラ猫は走って逃げてしまったの。

「なにも、殺そうってわけじゃないのに……」
そういう彼女の目には、不思議な光が宿っていたわ。
彼女は、又ふらふらと歩き始めた。
そして、今度はノラ犬を見つけたの。
彼女のポケットにはカッターが一つ。

彼女は、ふるえる手でそれを握り締めたわ。
犬の瞳は、夜の闇の中でぼんやりと光っていた。
このカッターで、どうやって犬を刺そうか……。
彼女は、考えたわ。
犬に言葉が通じたら、血を少しわけてといえるのに。

彼女の額には、いつしか汗が浮かんでいたわ。
「ウワワン、ワウンッ!!」
大きな犬の声。
彼女は驚いて、一気にカッターの刃を出し、犬にめがけて振りおろしたの。

カッターは犬の脇腹にささったわ。
でも、その時刃が折れて……。
「ウワウグワォン!!」
犬は苦しんで、彼女に飛びかかってきたの。
「きゃあああっ!!」
彼女の叫びが、夜の街に響いたわ。

「いやあ、いやああーっ!!」
犬は、彼女の腕に噛みついてきた。
彼女は必死で、折れたカッターを振りおろしたわ。
犬の首や肩に、何度も折れた刃を刺してね。
血しぶきが、たくさん彼女の顔にかかったわ。
雨の日に、泥がはねるように。

びしゃっ、びしゃっとね。
二人は、カッターと牙でしばらく戦っていたわ。
そうして、時間がすぎ……。
先に動かなくなったのは、犬の方だったわ。
道には、無残な血の跡。

広範囲に飛び散った血からは、むっとした生臭い匂いがしていたわ。
「二、三滴でよかったのに……」
彼女は、ハンカチで犬の傷口をなぞり、ポケットにしまったわ。
そして、家へ向かって歩き始めたの。
家に帰ると、彼女は疲れきってベッドに倒れこんだわ。

動物の血は、手に入れた。
だから、黒魔術はいつでもできる。
今は、少し休みたい……。

彼女は、すぐに眠りに落ちたわ。
血だらけの服も着替えずに。
………。
その夜、彼女は夢を見たの。
誰かの結婚式だった。

真っ赤なウェディングドレスを着た女の人が、こんなことをいっていたわ。
「なんでこんなにドレスが赤いの?
赤い花が、二、三付いているだけでよかったのに……」
どこかで聞いたような言葉だと、平井さんは思ったわ。

花嫁は、平井さんに気付いて笑いかけてきた。
その口もとには、人でも噛み切ることができそうな歯が、びっしりと並んでいたわ。
人間の歯って、こんな形をしていたかしら?

平井さんは、ぼんやりとした頭で考えたわ。
その時花嫁が、ゆっくりとベールをはいだの。
すると……。

ベールの下に現われたのは、ガイコツの顔。
黒魔術の本に載っていた絵と、同じ顔だったの。

そこで平井さんは目覚めたわ。
「なんて夢……」
彼女の身体には、汗がべっとりと付いていた。
「シャワーを浴びよう……昨日のケガもまだ洗っていないし……」
彼女は、ベッドから起き上がったわ。

すると……。
服には、血なんて付いていなかったの。
体にも、付いていなかったの。
血だらけのまま寝たはずなのに。
彼女はあせったわ。
そして、ポケットの中のハンカチを見てみたの。

そうしたら……。
ハンカチにも、血は付いていなかったのよ。
「これは一体……?」
彼女は、後ろに何かの気配を感じたわ。
そして、振り向くと……。
そこにあったのは、夢で見た赤いウェディングドレス。

そして、どこからか声が聞こえてきたの。
「動物の血は確かに受け取った。イヌの血より、お前の血の方がおいしかったよ……」
その日、彼女は熱をだし、学校を休んだわ。
そうしたら、佐藤君がお見舞いにきたの。

「平井さん、今日、どうして休んだんですか?」
「……」
彼女は、何もいえなかったわ。
「……すみません。昨日は、僕もいいすぎました」
「……」

「あの、好きな人って誰なんですか?」
「……」
彼女は、黙って佐藤君の手を握ったわ。
すると佐藤君は、少し驚いたような顔をして、彼女の手を握りかえしてきたの。

……その後、二人は付き合い始めたわ。
それが平井さんの黒魔術のせいかどうかは、坂上くんの想像におまかせするけれど。

それから、平井さんと佐藤君は、卒業して何年か後に結婚することになったわ。
でも……。
結婚式の日、平井さんがいきなりいなくなってしまったそうよ。

式は、都内のホテルで行われたらしいんだけど。
彼女が、お色直しのために白いウェディングドレスに着替えようとして、会場を退出した後……。
いつのまにか、いなくなってしまったそうよ。

みんなは、慌てて彼女を捜したわ。
そうしたら……。
彼女が着替えていた部屋に、真っ赤なウェディングドレスが落ちていたんだって。
赤いドレスを発見したのは、佐藤君だった。

彼が驚いてドレスに駆け寄ると、そのドレスはフッと消えてしまったって話よ。
これは、佐藤君が後で話していたことなんだけど……。
なんか、どこからか声が聞こえてきた気がしたんだって。

その声は、こういっていたそうよ。
「二、三滴で済まそうと思っていたけれど、ついおいしくて、最後まで味わってしまったよ……」
ねえ、坂上君。
これ、どういう意味だと思う……?

わたしの話は、これで終わりだけど……。
七人目、まだ来ないね。
これから、どうしようか。
ねえ、坂上君……?


       (七話目に続く)