学校であった怖い話
>六話目(福沢玲子)
>B6

彼女は、ふと飼い猫に目を止めたわ。
血を、たったの二、三滴だもの。
飼い猫から手に入れてしまおうと彼女は思ったの。
彼女はまず、猫にマタタビをかがせたわ。
そして、猫がもうろうとしたところで、カッターの刃をあてたのよ。

「ミギャーーッ!!」
猫は目をむき出し、爪を立てて抵抗したわ。
ちょっと傷をつくろうとしただけなのに、ずいぶん過敏な反応を示したのよ。
マタタビをかがせていたのにね。
彼女はびっくりして後ずさったわ。

すると猫は、走って逃げていってしまったの。
じゅうたんには、少量の血の跡が付いていた。
「これでも、使えるかしら……?」
彼女は、血のついたじゅうたんの毛をはさみで切り、魔方陣の中心に置いてみたわ。

……静かな夜だった。
魔方陣の中には、血の付いたじゅうたんの毛。
彼女は、何だかじっとしていられなくなったわ。
黒魔術を試したのはいいけれど、不安になってきたのね。
自分で自分が、怖くなってきたのよ。

佐藤君に会いたい。
彼女は、そう思ったわ。
黒魔術の効力を試すというよりはただ彼に会いたくてしょうがなかったの。
それで佐藤君に電話をかけ、呼びだしたのよ。
夜の学校にね。

佐藤君は、彼女に呼ばれて急いで校門に駆けつけたわ。
彼女は、一人でぽつんと立っていた。
泣きそうな顔をして。
その姿がすごく悲しく見えて、佐藤君は少し戸惑ったわ。

「佐藤君……」
最初に口を開いたのは、平井さんだった。
「佐藤君、好き……」
唇をかみしめながら、彼女はそういったの。
佐藤君は、しばらく何もいえなかったわ。

彼女が、なんでいきなりこんなことをいうのかが分からなくて。
でも、彼はすごく嬉しかった。
彼だって、平井さんのことが気になっていたんだもん。
「平井さん、本当ですか?
本当なら、黒魔術なんてやめてください。
そんなものに頼らなくても、僕は……」

「え、何、佐藤君……? 僕は、何なの?」
「ですから、黒魔術なんかに頼らなくても……」
「………」
平井さんは、複雑な気分だったわ。
彼女は、黒魔術で彼の心をつかむおまじないをしていたんだもの。

「……そんなこといわないで。
佐藤君、そんなこと、いわないで……」
彼女はぽたぽたと涙を流し始めたわ。
それを見て、佐藤君はピンときたの。
彼女は、黒魔術をやってしまったに違いないとね。

「平井さん、もしかして……」
彼は、責めるような目付きで彼女を睨んだわ。
彼女はいたたまれなくなって、ただ彼の腕を握りしめた。
「平井さん、離して下さい」
彼は、冷たくいいはなったわ。

「結果は、どうだったんですか?
僕と平井さんは、うまくいくってでたんですか?」
そして、彼女につめよったの。
「佐藤君、やめて……」
彼女は、鼻を真っ赤にして泣いていた。

佐藤君は、考えたわ。
彼女が占いをした後、こうして僕を呼び出し告白をしたのは、いい結果がでたからだろうって。
確かに、佐藤君は平井さんのことが好きだったわ。
だけど、黒魔術の占いが当たったなんて、彼女に思ってほしくなかったのね。

それで、彼は平井さんに冷たくすることにしたの。
「……すみません。
やっぱり今は、平井さんの気持ちに応えることができません……」
平井さんは、傷ついたわ。

黒魔術をしたのに。
飼い猫の血まで捧げたのに。
効力があると思ったのに……。
彼女は、その場にへたりこんで泣き出したわ。
すると……。
「うわああああっ!!」
佐藤君が、頭を抱えて苦しみだしたの。

何が起こっているのか分からず、しばらく彼女は茫然としていたわ。
でも、彼が地面に倒れたのを見て、すぐさま駆け寄ったの。
「佐藤君……!」
すると、苦しんでいた佐藤君が、ゆっくりと目を開け……。

平井さんに向かって笑いかけたのよ。
「平井さん……僕も、あなたが好きだったんです……」
彼の目は、魂でも抜かれたように虚ろになっていたというわ。

……ねえ、坂上君。
世の中には、いろいろな占いがあるわよね。
そして、占いの後になにかしらのアドバイスがあったりするわよね。
でも……。
それらの総てをうのみにしてはいけないのよ。
……そう思わない?

占いの中には、恐ろしい魔力を秘めたものもあるかもしれないじゃない。
平井さんがおこなった、黒魔術のように……。
佐藤君と平井さんは、何年か後に結婚したみたい。
黒魔術のおまじないは、よく効いたってわけ。
でも……。

佐藤君は、ずっと虚ろな目をしたままだっていう話よ。
得意だった占いもやめちゃってね。
彼女が好きだった彼の面影は、なくなってしまったみたい。
彼女の昔の友達は、口をそろえてこういうそうよ。
「これが、あなたのすべてをわかってくれる人なの?」
ってね……。

……坂上君。
私、思うんだけどね。
佐藤君が、あの時平井さんにいい返事をしていれば、魂が抜かれたようにはならなかったんじゃないかってね。
そんな、予感がするの。
ねえ、そう思わない……?

じゃあ、次の人の話を……。
なんていっても、まだ七人目は来ないわね。
どうしようか。
ねえ、坂上君……?


       (七話目に続く)