学校であった怖い話
>六話目(福沢玲子)
>D6

彼女は、こういったの。
田中君の、新しい彼女を呪いたいって。
そうしたら、占い師は黙り込んじゃってね。
下を向いたまま、平井さんにこういったの。

そんなことをするより、自分を磨いた方がいいって。
平井さんのことを、もっと美しくしてあげるからって。
そして占い師は、今度は彼女の爪を要求したの。

すこし、爪を切って渡してくれってね。
彼女は、占い師に爪を切ってもらったわ。
なんだか、変な気分だった。
秘密めいたことをしているような……。
まあ、実際秘密めいたことだったんだけれどね。

占いの館から帰る途中、彼女はずっと下を向いていたわ。
きれいになるために髪や爪を渡す……。
そんな儀式をしている自分が、不思議に思えてね。
私は一体、何をしているんだろうって。

彼女はその夜、ベッドの中で泣いたわ。
なんだか、悲しくてしょうがなかったの。
悲しかったのは、田中君の彼女を見てしまったからかしら。
あるいは、おまじないの力に頼る自分が情けなくて?
……とにかく、彼女は一人泣きつづけたのよ。

そして次の日。
彼女は、真っ先に鏡を見たわ。
一晩中泣いたから、きっとひどい顔になっているはずだと思ってね。
そうしたら……。

鏡の中にいたのは、昨日よりきれいになった自分。
まぶたなんて、ちっとも腫れてはいなかった。
くりくりとした目に、まつげがくるりとついて。
顔の色も、昨日より白くなっていたようだった。

彼女は、あの占い師をあらためて見直したわ。
なんだか妙だと、思う余裕はなかったの。
そして、彼女はこう思ったのよ。
もっと、もっときれいになりたいって。

そうして、その夜彼女が占い師のもとに行くと……。
部屋の中にあったのは、田中君の今の彼女らしき後ろ姿。
平井さんは、あせったわ。

もしかしたら、彼女もこの占い師にきれいにしてもらったんじゃないかと思ってね。
そして、田中君の心を射止めたのかも、なんて考えて。
それで、彼女に問い詰めようとした時……。

「うっっ!!」
平井さんは、胸を押さえて倒れ込んだの。
すると、目の前にいた女の人がスッと立ち、平井さんに笑いかけながら、こういったのよ。
「田中君は、私のものよ……」
女の人は、机の中から黒いローブを取り出したわ。

そして、それをゆっくりとかぶったの。
その姿は……。
「ぎゃーーーーっ!!」
占いの館から、叫び声があがったわ。
それは、平井さんの声だった……。

数日後、その占いの館から、女性の死体が見つかったそうよ。
死体は黒いゴミ袋の中に、ロウでできた人形と一緒に捨てられていたんだって。
ロウ人形の中からは、死んだ女性の髪や爪が入っていたって話よ。
ねえ、坂上君。
この話、聞いたことあるでしょ?

何年も前に、ニュースでやっていたじゃない。
あの被害者って、平井さんだったのよ。
でね、死因は不明なんだって。
外傷はないし、彼女は病気でもなかったしね。
………。
ねえ、坂上君。
知ってる?

人間の髪や爪って、きれいになりたいとか、彼の心を射止めたいとかっていう、恋のおまじないにも使うけど……。
だれかを呪い殺したりする時にも、使うんだって話……。
あ、そうそう。
田中君って、結婚したんだって。

相手の女の人は、すごくきれいな人らしいよ。
その人、美和子さんっていうそうだけど。
でね、田中君が結婚した後、彼に平井さんのことを聞いたら、こんな返事がかえってきたんだって。

「平井さん?
……確かに、付き合っていたことはあるけど。
あの頃、彼女は占いに凝っててさ。
何だか、妙な店にも出入りしていたみたいなんだよね。
実は、彼女とはあんまり長く付き合っていないんだ。
その頃美和子と出会ったってこともあって。

それに、平井さんってちょっと深入りできない雰囲気があったからね。
……そしたら、あの事件だろ?
俺、もうまいっちゃってさあ。
あの頃美和子がいなかったら、俺、どうなっていたのかなあ」

……ねえ、坂上君。
美和子さんっていう人がいなかったら、本当にどうなっていたのかしら。
私、聞いちゃったんだけどさ。
私のお姉さんが、平井さんの形見を持って田中君の家を訪ねたらしいの。

そうしたら、美和子さんが洋間にいて、黒いローブを着てぶつぶついっていたんだって。
田中君の写真を前にしてね。
お姉さんがびっくりしていたら、彼女はすぐにローブを脱いだらしいんだけど……。
それって、どういうことなんだろうね。
………。

私の話は、これで終わりよ。
………。
でも………。
七人目の人、来ないね。
どうする?
坂上君、そろそろ帰ろうか……。


       (七話目に続く)