学校であった怖い話
>六話目(福沢玲子)
>I10

近藤先生は、震える手でドアを開けてみたわ。
そうしたら……。
ドアの外には、誰もいなかったの。
彼は、ほっと胸を撫でおろしたわ。
そして、ドアを閉じようとした時……。

「せんせえええ!!」
ドアの隙間から、手が一本入り込んできたのよ。
それは、平井さんの手だったわ。
血だらけの小指からは、赤い色をした神経の糸がのびていた。
彼女は、ドアの影に隠れていたのよ。
「うわあああっ!!」

近藤先生は、急いでドアを閉めようとしたわ。
すると、彼女の腕がドアにはさまって……。
「いやああああっ!!」
彼女は、大声で泣き叫んだの。
「せんせえ、ひどいっ!
せんせえ、ひどいっ……!!」

そして平井さんは、近藤先生の腕を強く引っ張ったの。
彼を、表にだそうとしてね。
近藤先生は、必死で抵抗したわ。
自分の腕を外に出したまま、何度も何度もドアを閉めようとしたの。
「うあああ!! うあああ!!」

近藤先生の腕はドアにはさまれ、にぶい音が辺りに響いたわ。
彼は、自分が何をしているのか、分かっていなかったのかもしれない。
ただ、彼女が恐ろしくて……。
何度も何度も、ドアを閉めようとしたのよ……。

近藤先生の腕の骨は、メチャメチャに砕けてしまったそうよ。
それで、事件の後、逃げるように学校を辞めてしまったらいわ。
近藤先生、それからどうしているんだろうね。

……今ね、平井さんは病院で生活してるんだって。
いたって普通らしいよ。
私のおねえさん、何度かお見舞いに行ったらしいから。
この話はね、お見舞いに行ったときに平井さんがしてくれたんだってさ。

おねえさんね、私よりも七つ年上なの。
今、二十三才。
OLやってるよ。
でもね、同級生だった平井さんは、まだ十九才なの。
いつまでも十九才で、年をとらないんだってさ。

だって、二十歳になったら死んじゃうんだもん。
平井さん本人がそう思ってるんだから、仕方ないよね。
だから、家族の人たちはね、いつまでも平井さんが十九才だよって話してるんだってさ。
それでね、一生懸命に捜しているらしいよ。

誰をかって?
決まってんじゃん。
近藤真司って名前の人。
近藤先生と会えなくなっちゃったでしょ。
だから、代わりの近藤真司さんを見つけないと、平井さんは年をとることができないのよ。

えーと、誕生日や血液型はなんだっけかな。
私、聞いたけど忘れちゃったんだよね。
でも、この際、もうどうでもいいんじゃない?
家族の人が、なんとか似たような人を見つけたら、うまくごまかしてくれるよ。

……ばれたら、平井さんに殺されちゃうかもしれないけど。
ねえねえ、もしあなたの友達に近藤真司って人がいたら教えてくれない?
私が紹介してあげるから。
心配ないって。

あ、そうだ。
この際、坂上君、どう?
大丈夫、うまくやれば、ばれないよ。
早く結婚したいんでしょ。
ちょうどいいじゃん。
平井さんて、すごくきれいだし。

あ、坂上君はルックスはどうでもいいんだっけ。
重要なのは、性格なんだよね。
大丈夫、平井さんて性格、すごくいいから。
なんてったって、一人の男性に尽くすタイプだもん。
お料理も勉強中だっていうし。

なんせ、彼女には、たくさん時間があるんだから。
永遠の十九才だもんね。
これで私の話は終わりだけど……。
……来ないね、七人目。
どうする?
もう、帰ろっか。


       (七話目に続く)