学校であった怖い話
>七話目(新堂誠)
>15H4

僕は、とっさに振り向くと、岩下の肖像画を突き出した。
肖像画に、彫刻刀が突き刺さる。
襲ってきたのは荒井だった。
「死ぬんだよ、坂上君!」
荒井は、手に持った彫刻刀で、肖像画を切り裂いた。

そして、キャンバスに開いた穴から嬉しそうな顔を覗かせた。
「ひぃーーーーーっ!?」
荒井が肖像画を切り裂くのと、岩下が叫ぶのと同時だった。

「殺してやる!」
そして、岩下は怒りに顔を引きつらせ、襲いかかった。
……僕ではなく、荒井にだ。
荒井にとっては、まさに予想外のことだったろう。
岩下ともみ合ううちに、彫刻刀は岩下の手に移った。
「死ね! 死ね!
死んじまえっ!」

「ぎゃはっ!」
そして、岩下は何かに取りつかれたように、
荒井の胸に何度も何度も彫刻刀を突き立てた。
僕は、その光景をただ呆気にとられたまま見ていた。
荒井のワイシャツが、血で赤く染まっていく。

そして、ワイシャツが赤く染まるのと反比例に、顔はどんどん青ざめていく。
もう、息はしていなかった。
「坂上っ!」

突然、岩下がこちらに向き直った。
僕は、その岩下の顔を見て動けなくなった。
こんなに恐ろしく変わり果てた人の顔は見たことがない。
岩下に殺される。
突然、岩下は自分の顔に彫刻刀を突き立てた。

「この絵がなくなったら、私も死ぬわ。この絵は、私の愛した先輩が描いてくれたの。先輩はこの絵を残して卒業しちゃったから、殺してやった。私を置いていく奴は許さない。……坂上、先に地獄で待っててあげる。あんたの命も、もうすぐ終わるのよ」

僕は、止めることができなかった。
岩下は、自分の顔を彫刻刀でめった刺しにすると、最期にそれを喉に突き立てた。

「ひゅぅーーーー」
口から、かすれた声を漏らし、ぱっくりと割れたのどから血しぶきを上げ、岩下は絶命した。
部室は二人の血で真っ赤に染まった。

絶命した岩下の顔は、切り裂かれた肖像画と同じ顔をしていた。
「じょ……冗談じゃない。……みんな、みんな、頭がおかしい」
僕は、腰が抜け、血の海となった部室にへたり込んだ。

……こいつらみんな殺人鬼なんだ。
僕は、たまたま殺人鬼集団の生けにえになっただけなんだ。
……僕は、死ぬ?
……僕は、死んでしまう?

……と、とにかく、立ち上がらなければ。
……と、とにかく、アンプルを捜さなければ。
「うあっ!」
僕は、足が震えるのと床が滑るのとで、立ち上がれない。

体勢を崩した途端、棚から一冊のノートがこぼれ落ちた。
そのノートには、『恨みのノート』と書かれてあった。
……なんだ、これ?
読んでみるか?
1.読んでみる
2.読まないほうがいい