学校であった怖い話
>七話目(新堂誠)
>3E3

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以下は、彼女の書いたレポートの文章である。
私は、今回の実験に一人の男性を選びました。
私のおじいちゃんです。
おじいちゃんは、まもなく死のうとしています。

まだ本人に自覚症状は現れていませんが、お医者さんは、そういってました。
あと、百日もたないそうです。
それで、私はおじいちゃんがこれから生きる最後の百日間をレポートとして作成することにしました。

一日目。
おじいちゃんは、夕ご飯を食べたあと、少しだけ血を吐きました。
この症状は、もうずっと続いています。
あとは、いつもと変わりありませんでした。

二日目。
おじいちゃんは昨日と一緒です。
これといった変化はありませんでした。

三日目。
夕ご飯のあと、家族会議になりました。
おじいちゃんを病院に入院させるかどうかを話し合うためです。
家に置いといても、お母さんは看病をするのが大変だと泣いていました。

これはチャンスだと思い、私は自分が看病するといいましたが、お前には学校があるだろうとお父さんにいわれ、反対されました。
私は泣きました。
もちろん、ウソ泣きです。
それが成功したせいか、おじいちゃんは家にいることになりました。

これで、また研究を続けられます。
お母さんが、一人になるとため息をついたのを、私は襖の陰から見てました。
……………………四十六日目。
今日から、おじいちゃんの薬が変わりました。

あれは、きっと毒です。
看病に疲れたお母さんが、きっとおじいちゃんを殺そうと思って、毒を飲ませることにしたのです。
チャンスを見つけて、今度確認しようと思います。

四十七日目。
この日から、おじいちゃんは歩くこともままならなくなりました。
きっと、昨日の毒のせいです。
おじいちゃんの吐く血の量も多くなった気がします。

四十八日目。
おじいちゃんのけいれんが止まらなくなり、お医者さんが来ました。
すごく太い注射を三本もしてました。
お医者さんは、そろそろ入院したほうがいいと勧めていました。
私は、必死に止めました。

それでもそろそろ無理のようです。
私のウソ泣きも通じませんでした。
でも、もうすぐ夏休みになるから、そうしたら私も暇になるので、入院しても大丈夫です。

四十九日目。
おじいちゃんは、もう自分が死ぬことを自覚し始めたようです。
それまではまだ少し元気だったのですが急に元気がなくなりました。
人間とは、そういう生き物なんでしょうか。
何だか、おもしろくありません。
もっと、生きようと努力してほしいと思います。

五十日目。
私は、おじいちゃんに
「おじいちゃん、死ぬの?」
と聞いてみました。
もちろん、死ぬのに決まってます。
そうしたら、おじいちゃんは何もいわず力無く笑うと、がい骨のような手で私の頭をなでました。

この人は、死ぬことを自覚している。
まだあと五十日も生きてもらわなければならないのに、これではおもしろくありません。
研究対象を変えようか、私は悩み始めました。
そうしたほうがいいかもしれません……。

私は、死ぬものには最期まで悪あがきをしてほしいのです。
今回のレポートは、前半の五十日分です。
残り五十日は完成したら、また提出したいと思います。
これで、レポートは終わっていた。
……なんて女だ。
こんなもの、学校のレポートに提出しやがって。

提出日を見ると、三日前になっていた。
研究対象を変えるだと?
まさか、それが僕だというのか?
冗談じゃない!
僕は、知らぬうちにそのレポートをしわくちゃに握りしめていた。

このレポートは何かの役に立つかもしれない。
僕は持っていくことにした。
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