学校であった怖い話
>七話目(新堂誠)
>5O4

僕は逃げ出した。
「待てっ!」
背後で、細田の声が聞こえる。
誰が待つものか。
僕はベッドの横にまわりこみ、消毒液の入った洗面器を見つけた。
追いすがる細田に、振り向きざま投げる。

「うわっ!」
怯んだ隙に、ドアの方へ駆け出す。
「逃がすか!」
すり抜けようとした時、細田が腕を突き出した。
太い腕が、まともに僕の首を殴りつける。

呼吸が止まった。
よろめいた足をすくわれる。
倒れた僕の上に、細田が馬乗りになった。
消毒液が、奴の髪からポタポタと垂れる。
細田は、僕の首を両手で絞めた。

「ふふふ……苦しいかい?」
顔を近づけてくる。
このままでは殺される。
その時、僕の手に、何か固いものが触れた。
とっさにつかんで、振り回す。

ガツッと固い感触。
細田の頭に当たったんだ。
細田は僕に倒れこんで来た。
とても重い。
僕は苦労して、奴の下からはい出した。

細田は起き上がらない。
耳の穴から、血を流している。
もしかしたら、結構重傷なのかもしれない。
僕は、奴の巨体を爪先で蹴転がした。
「アンプルはどこだ? 答えろ」
「う……う……」

細田は答えない。
答えられないのかもしれない。
「答えないと、蹴り殺すぞ!」
痛みにあえぐ細田の顔が、青から土気色に変わった。
死の恐怖を感じているんだろうか?
ざまを見ろ。

これで少しは、僕の気持ちが理解できただろう。
細田が、口をぱくぱくさせた。
「あ……きゅ、旧校舎……」
旧校舎か!
嘘をついているようにも見えない。

「わかった」
僕はうなづいて、細田を顔を蹴り飛ばした。
「ぐがっ」
変な声を上げて、細田は気を失った。
今まで、自分にこんな思い切った行為ができるなんて、思いもよらなかった。

「……旧校舎」
僕は、時計を見た。
残り時間はあとわずか……。
急がないとならない。
……しかし、その前に行っておかねばならないところはないか?
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