学校であった怖い話
>七話目(新堂誠)
>7Y8

いちかばちかだ!
僕は、風間の横をすり抜けた。
奴も、まさか突っ込んでくるとは思わなかったらしい。
「こ……このお!」
背中に、かすかな痛みが走った。

走りながら確かめると、シャツの背中がすっぱりと切られている。
風間は、刃物を持っている。
「待て! 獲物は、逃げ切ってはいけないんだぞ!」
風間が叫びながら、追いかけてくる。
僕は、飛ぶように階段を駆け下りた。

風間が踊り場まで来た。
「坂上!!」
僕はハッと振り向いた。
……その時の光景を、僕は一生忘れない。
光る包丁を振りかざし、僕に向かって階段を駆け下りていた風間が足を滑らした。

奴の顔が、恐怖に歪む。
僕に向かって落ちてくる。
そして。
気づいたとき、風間は僕のすぐ側に倒れていた。
胸に、深々と包丁が突き刺さっている。
なんて、あっけない死に方だ。

でも奇妙に、風間には似合っているような気がした。
さあ、グズグズしているヒマはないぞ。

僕は階段を駆け下り、出口に向かった。
そこに日野がいた。
にやにや笑っている。
「たいしたもんだな、坂上。見直したぜ。俺の仲間にならないか、殺人クラブの」

「……………………馬鹿いうな。死んでもお断わりだね」
「……そうか、残念だ。お前なら、いい相棒になると思ったんだけどな。
裏切った連中は全員始末した。新堂も、細田もだ。もう誰もいない。
そして、俺ももうすぐ卒業だ。お前なら、俺のあとを継いで、いい部長になれると思ったんだがな。どうだ? 考え直さないか」

「やだね」
「強情っぱりだなあ。まあ、仕方ない。それじゃあ、あきらめよう。殺人クラブは俺の代で終わりだ」
僕は、話しながら、日野に近づいていった。

「日野。一つ聞きたい」
「何だ?」
「殺人クラブなんて、何のためにある?」

「よくぞ、聞いてくれた。人間はな、ストレスというものがたまる。だけど、エリートはストレスがたまってはいけないんだ。そのためには、どうする? そう。ストレスになりそうな存在を排除する。

腹の立つ人間は、一人残らず殺してしまうのさ。そうすれば、ストレスもたまらないし、自然とストレスも解消できる。楽しいぞ。こんな素晴らしい方法、ほかにあるか?」

「お前は、頭が変だよ」
「……ありがとう。ほめ言葉として受け取っておくよ。凡人に、天才の考えることは、いつの世の中でも理解されないものさ。そろそろ、終わりにしようぜ」
日野は、ナイフを取り出した。
僕には、よける力も残っていないだろう。

……いや、駄目だ。
こんなことであきらめはしない。
刺されたら、奴も道連れだ。
僕は呼吸を計った。
日野がナイフを振りかざし、襲ってきた。
僕は腕一本犠牲にする覚悟で、飛び込もうとした。
その時、ガラガラと音を立てて、壁が崩れてきた。

「うわあっ!」
僕はぎりぎりよけたが、日野はガレキに押しつぶされた。
「ひ、日野!」
日野は、下半身を壁に挟まれる形で倒れていた。
そのくちびるから、血が流れ出す。
「俺の……殺人クラブ…………選ばれた人間の……」
声が途切れた。

死んだのか?
僕は近づこうとした。
しかし、また壁が崩れ始めている。
このままでは、僕も生き埋めだ!

僕はよろめく足を踏みしめて、旧校舎から逃げ出した。
夜の空気は、冷たくておいしかった。
一気に気が抜けて、僕は校庭に座り込んだ。

暗い夜空をバックに、赤々と燃え上がる炎の狂宴。
きれいだ……と思った。
ほうけたような僕の耳に、サイレンの音が聞こえた。
近所の人が呼んだ消防車かな。
けたたましいはずのその音も、今の僕には心地よい。
僕は生きている。
僕は生きているんだ。


       (新聞部エンド)