学校であった怖い話
>七話目(新堂誠)
>7AA8

「風間さん、何で僕達が戦わなくちゃいけないんですか!?」
僕は叫んだ。
「僕を倒しても、日野がアンプルをくれるとは限らないんですよ!!」
風間の表情が変わった。
眉を苦しげにしかめる。
これなら、説得できるかも。

僕は、力を得た。
「ねえ、風間さん……」
「うおおおおっ!!」
いいかけた僕に、いきなり風間がタックルを仕掛けた。
不意をつかれて、転んでしまう。

僕達はひとかたまりになって、地面を転がった。
風間が、アイスピックを振り上げた。
僕を刺すつもりか!?
そうはさせない。
僕は、風間からアイスピックを取り上げようとした。

もみ合っているうち、切っ先が滑った。
「あっ!」
風間の体が硬直した。
その胸に、アイスピックが深々と突き刺さっている。
僕をにらみつけながら、風間はズルズルと崩れ落ちた。

「チェッ、役立たずめ」
日野が吐き捨てた。
信じられない。
なんて奴なんだ。
仲間が死んだというのに……。
僕の表情を見て、日野はくちびるをゆがめてみせた。

「なんだよ、文句があるのか?」
ポケットから、ナイフが現れた。
「それならかかってきたらどうだ!?」
今度は武器で脅そうというのか。
とことんまで汚い奴だ。

こいつだけは許せない!
僕は、日野に体当たりをした。
「うわっ!?」
日野は吹っ飛んだ。
まさか、僕がナイフを恐れないなんて、思わなかったんだろう。
「よくも……」

目に、凶暴な光が宿っている。
すべてを引き裂く、野獣の目だ。
これが日野の本性なのだろう。
日野は、ゆっくりと立ち上がろうとした。
その時、日野の足を、誰かがつかんだ。
倒れていた風間だ。

「ひ、日野様……アンプルを……」
「馬鹿をいうな。役立たずのくせに……」
日野は冷たくいい、風間の手を蹴った。
「アンプルをやっても、その傷じゃあ、おまえは死ぬよ」
風間の目が、怒りに燃えた。
「そんな……僕を見捨てるのか?」
「ああ、負け犬はいらないからね」

日野は、僕に向き直った。
「さあ坂上、今度はおまえの番だ」
けれど、僕は答えられなかった。
日野の背後に、目を奪われていたからだ。

フラフラと立ち上がった風間の、憎しみに満ちた視線に。
手には、胸から抜いた血まみれのアイスピックを握っている。
「日野……!」
僕が叫ぶと同時に、風間はアイスピックを振り下ろした。

「ぎゃああーーーーっ!!」
日野の絶叫が、響きわたった。
勢いよく地面に倒れ込む。
背中につき立ったアイスピックは、一撃で日野の命を奪ったようだ。

風間が、ズリズリと日野に這い寄る。
「……あった、アンプル……」
日野のポケットから、解毒剤のアンプルを取り出す。
そして、一息に中身を飲み干した。

「これで……これで、もう、だいじょう……ぶ……」
満足そうな笑みを浮かべ、風間も事切れた。
僕は、へなへなと座り込んだ。
もう、一歩も動けなかった。

このまま眠ってしまいたかった。
終わったのか、これで……?
本当に終わったんだろうか……。
僕の疑問に答えるように、その時、朝の最初の光がさし込んできた。

そうか……。
やっぱり終わったんだ。
長い長い夜が、やっと。


       (新聞部エンド)