学校であった怖い話
>七話目(新堂誠)
>7AC7

本当は、すぐにでも帰りたかった。
でも、足が動かなかった。
疲れと安心で、体がだるく感じた。
僕は、壁にもたれた。
ちょっと目を閉じる。

少しだけ休もう。
そう、少しだけ……。
そう思いながら、僕はつい、うとうとしてしまった。
……何かきな臭い。
気づいて、目を覚ました時には、もう遅かった。
押し寄せる熱気、ぱちぱちいう音。
火事だ!
僕はあわててトイレを飛び出した。

僕は階段を駆け下り、出口に向かった。
そこに日野がいた。
にやにや笑っている。
「たいしたもんだな、坂上。見直したぜ。俺の仲間にならないか、殺人クラブの」

「……………………馬鹿いうな。死んでもお断わりだね」
「……そうか、残念だ。お前なら、いい相棒になると思ったんだけどな。
裏切った連中は全員始末した。新堂も、細田もだ。もう誰もいない。
そして、俺ももうすぐ卒業だ。お前なら、俺のあとを継いで、いい部長になれると思ったんだがな。どうだ? 考え直さないか」

「やだね」
「強情っぱりだなあ。まあ、仕方ない。それじゃあ、あきらめよう。殺人クラブは俺の代で終わりだ」
僕は、話しながら、日野に近づいていった。

「日野。一つ聞きたい」
「何だ?」
「殺人クラブなんて、何のためにある?」

「よくぞ、聞いてくれた。人間はな、ストレスというものがたまる。だけど、エリートはストレスがたまってはいけないんだ。そのためには、どうする? そう。ストレスになりそうな存在を排除する。

腹の立つ人間は、一人残らず殺してしまうのさ。そうすれば、ストレスもたまらないし、自然とストレスも解消できる。楽しいぞ。こんな素晴らしい方法、ほかにあるか?」

「お前は、頭が変だよ」
「……ありがとう。ほめ言葉として受け取っておくよ。凡人に、天才の考えることは、いつの世の中でも理解されないものさ。そろそろ、終わりにしようぜ」
日野は、ナイフを取り出した。
僕には、よける力も残っていないだろう。

……いや、駄目だ。
こんなことであきらめはしない。
刺されたら、奴も道連れだ。
僕は呼吸を計った。
日野がナイフを振りかざし、襲ってきた。
僕は腕一本犠牲にする覚悟で、飛び込もうとした。
その時、ガラガラと音を立てて、壁が崩れてきた。

「うわあっ!」
僕はぎりぎりよけたが、日野はガレキに押しつぶされた。
「ひ、日野!」
日野は、下半身を壁に挟まれる形で倒れていた。
そのくちびるから、血が流れ出す。
「俺の……殺人クラブ…………選ばれた人間の……」
声が途切れた。

死んだのか?
僕は近づこうとした。
しかし、また壁が崩れ始めている。
このままでは、僕も生き埋めだ!

僕はよろめく足を踏みしめて、旧校舎から逃げ出した。
夜の空気は、冷たくておいしかった。
一気に気が抜けて、僕は校庭に座り込んだ。

暗い夜空をバックに、赤々と燃え上がる炎の狂宴。
きれいだ……と思った。
ほうけたような僕の耳に、サイレンの音が聞こえた。
近所の人が呼んだ消防車かな。
けたたましいはずのその音も、今の僕には心地よい。
僕は生きている。
僕は生きているんだ。


       (新聞部エンド)