学校であった怖い話
>七話目(荒井昭二)
>R18

僕は、その人形の首に手を回した。
そして、力一杯引き抜いた。
ズボッという手応えのあと、人形の首は引っこ抜けた。
「キィーーーー!」
人形は悲痛な叫び声を上げると、そのまま動かなくなった。

その人形は、よくできているのからか、もう半分生き返ろうとしていたからなのだろうか。
引っこ抜いたその頭には、人間のような脊髄がズルリとついていた。
そして、まだケイレンをしている。
人形の表面を覆っていた黄緑色の粘膜が溶け、僕の肩を流れ落ちていく。

人間でいう神経のようなものが、皮膚に張りついていた。
残飯が腐ったようなものすごい匂いだが、今の僕にはそれを気にかける気力もない。
気がつくと、それはただの人形に戻っていた。

「うわっ!」
僕は、慌てて飛び上がった。
人形の割れた頭の中から、手のひらほどもある大きなクモがワサワサと出てきたのだ。
そのクモたちは、どれもが人間の顔をしていた。

一匹、二匹……十一匹、十二匹。
人間の顔をしたクモは全部で十二匹いた。
これは、今まで生けにえになった生徒たちの魂なんだろうか。
クモは、頭の中から這い出てくると、空気に溶けるように消滅していった。

僕は、落ちている日記に目を落とした。
さっきは気づかなかったけれど、日記の中に一枚の紙切れが挟んであった。
見たこともない文字がびっしりと書かれてあり、下のほうに指で赤い判を押してあった。

きっと血の判だ。
これが、悪魔の契約書なのだろう。
真っ二つに破かれたこの契約書はもう効力を持たないのだろうか。
それならば、いいが……。

さすがに臭いがたまらなくなり、僕は立ち上がった。
この事件は、どうやって取り扱われるのだろう?
やっぱり、校長は行方不明ということで警察に処理されるのだろうか?
校長室の壊れた人形を、警察はどう解釈するんだろう。

どうせ、僕の話なんか誰も信用してくれまい。
この話を校内新聞の特集の七話目として組み込みたいが……あの企画はあれきり止まってしまったんだっけ。

校長室を出ても、とても静かだった。
僕は、誰もいない廊下を、重い足を引きずりながら歩き、家へ向かった。

……そして、一月ほどが過ぎた。
僕は完全に体調を整え、明日から始まる二学期に臨む。
今、僕は思う。
なぜ、荒井昭二は僕たちの集まりに参加したのかを。

彼は、僕たちに何かを伝えたかったのじゃないか?
本当は、彼は生き返ることを望んでいなかったのじゃないか?
そんな勝手な虫のいい考えが僕の頭をよぎることがある。
何にせよ、すべて終わったのだ。

結局、あれが学校に巣くう魔物の正体だったのかどうかは疑問だがとにかく人形の犠牲となる人たちはいなくなったのだ。
それがせめてもの救いさ。
……僕は、今も人形の悪夢を見る……。


       (新聞部エンド)