学校であった怖い話
>七話目(細田友晴)
>B11

「細田さん、やめてください!」
細田さんは、ものすごい力で僕を突き飛ばした。
「何をするんだよっ! これから、すごい秘密が見れるんじゃないか! 僕はね、感じるんだよ! すごく、感じるんだよ! この中で、強大な怨念が渦巻いてるんだよ!
この学校は、昔から悪いことばかり起きていた。

悪霊がいるのさ! そいつは、この中に眠っている! ヒャーーーーッハッハッハァ!」
「……細田さん」
僕は、もう細田さんを止めることはできなかった。
懐中電灯にぽっかりと映し出された細田さんの目は血走り、ケタケタと笑っていた。

電動ノコギリのスイッチがオンになり、女の金切り声のようなモーター音が静けさを吹っ飛ばした。
「ヒャッハッハ!」
細田さんは、それを掲げるとためらう事なく壁に切りつけた。
ガリガリとけたたましい音とともに、壁は簡単に崩れていった。

壁は、全く抵抗することなく、その体内をさらけ出していく。
……暗くて、よく見えない。
細田さんは、お構いなしにノコギリを振り回し、壁に開いた穴を押し広げていく。
「うぎゃあ!」

突然、壁の奥の暗闇から伸びた腕が、細田さんの顔をつかんだ。
細田さんは苦しそうに首を振る。
でも、手はぴったりとついて、離れない。
続いて、壁の奥に、たくさんの顔が浮かび上がった。
命のにおいがしない、亡霊の顔だ。

「生きている人間だ……」
「生きている人間だ……」
「どうして、おまえたちは生きている」
恨めしげなつぶやきが、あちこちから漏れている。
ゾクッと鳥肌が立った。
彼らは、死んだ生徒たちなんだろうか。

この世と、あの世の彼らを隔てていた壁を、僕たちは壊してしまったんだろうか?
細田さんをつかんでいた手が、すっと引っ込んだ。
フラフラッと、細田さんの大きな体が、倒れ込む。
「細田さん!」

皮膚がカサカサになっている。
まるで、ミイラのようだ。
「生気だ……」
「久しぶりの生気……」
「おいしいね……」
「おいしいね……」
口々にいっていた顔が、僕を見た。

今度は、僕の生気を抜く気か!?
蛇ににらまれた蛙のように、僕は身動きできなかった。
白くて長い腕が、僕に向かって伸びていた。
もう、おしまいか!?
覚悟をして目を閉じた一瞬後、冷たい指が僕の額に食い込んだ。


       (ドクロエンド)