学校であった怖い話
>七話目(細田友晴)
>C11

興味がないといえば嘘になる。
僕は、そのまま様子を見ることにした。
「ヒャーッハッハッハァ!」
高笑いをしながら、細田さんはノコギリのスイッチを入れた。
甲高い耳ざわりな音が、夜の学校にこだまする。
そのせいで、僕は、忍び寄る気配に気づかなかった。

細田さんが壁に、回転する刃を押しつけようとした瞬間。
僕のすぐ横を、風のように駆け抜ける何者かがいた。
黒木先生だ!
細田さんを突き飛ばし、ノコギリを取り上げる。

「おまえたち!」
怒られると思った。
しかし、振り向いた先生の人相は変わっていた。
僕たちではなく、ほかの者を見ているような目だ。
「おまえたち、ヤツらを逃がそうとしていたんだな?」

押し殺したような声。
さっきとは別人のようだ。
「ヤ……ヤツらって?」
「ごまかすな! 壁の向こうでうごめいているヤツらだ! この学校を裏から支配する、血に飢えたあいつらのことだ!!」

何をいっているのか、わからない。
でも先生のいうことが本当なら、今日聞いたいくつもの怖い話も、すべてこの壁の中にいる何かが起こしたことだというのか?
……いくら何でも、そんなまさか。

「ヤツらを復活させてなるものかっ!」
黒木先生は電動ノコギリを振り上げ、僕たちに襲いかかった。
「ひいいっ」
情けない声をあげて、細田さんが走り出す。
僕も、すぐ後を追った。
「待てっ!!」

先生はノコギリを持ったまま、追いかけてくる。
迫ってくるモーター音は、そのまま死刑宣告のように聞こえた。
転がるようにして校庭に出て、門に向かう。
もう少しだ。
あと少しで、日常の世界に戻れるはずだ。

しかし、細田さんがつまづいた。
「ああっ」
ぺたっと転んでしまう。
すぐ後ろに、ノコギリを振りかざした黒木先生が迫る。
もう駄目か!?

その時、僕らの姿が、まばゆいライトに照らされた。
「そこで何をしている!?」
パトロール中の警察官だ。
助かった!

「うおおおおっ!!」
黒木先生が、雄たけびをあげた。
そして、電動ノコギリを自分の首に押し当てた。
ギャギャギャ!!
と、すさまじい音が響いた。

勢いよく血が吹き出し、黒木先生の首が跳ね飛んだ。
首は転がって、僕の足元で止まった。
「大丈夫か!?」
警察官が駆け寄ってくる。
助かった……。
旧校舎も七不思議も、どうでもよかった。

僕は頭の中で、新しい企画を立てていた。
今日のことは、絶対にいい記事になる。
タイトルは……そうだな。
『学校であった怖い話』、これで決まりだ。


       (新聞部エンド)