学校であった怖い話
>七話目(細田友晴)
>T4

そうさ。
この壁の向こうにはな、階段があったんだよ。
地下へと続く階段がな。
旧校舎が木造物なのに、その階段とその先にある地下室だけは石造りだった。

それはな、防空壕だったんだよ。
当時、学校は非難場所の一つになっていたらしくてね。
空襲警報が鳴ると、近くの人たちはみんな集まってこの防空壕に逃げ込んだのさ。

みんな、この壁の向こうにある階段を下りて、薄暗いジメッとした地下室の中で肩を寄せ合い、震えながら空襲が終わるのを待っていたのさ。
わずか五分ほどの時間でも、何日間にも思えるほどだったんだ。

爆弾が雨あられのように降り、しっかりと耳を押さえていても鼓膜が破れるほどのごう音だった。
ごう音が鳴り響くと、その振動が石造りの防空壕にもはっきりと伝わってきて、そのたびにみんなは死を確信したんだ。

そして、死にたくないと祈りながら涙を流した。
空襲警報が鳴りやみ、爆弾の嵐が治まると、みんな生き延びたことを実感し、胸をなでおろしたんだ。

その防空壕が、この壁の向こうにあるのさ。
でもな、簡単に急場しのぎで作られた代物だったからな。
ほとんど気休めだったのさ。
作った連中も、爆弾が落ちれば、こんな防空壕は一発でオシャカになることをはじめからわかっていたんだな。

それで、ある日、起きてはならないことが起こったのさ。
この校舎を爆弾が直撃してな。
防空壕は、埋まってしまったんだよ。
防災頭巾をかぶっていても、埋まってしまえば何の役にも立ちはしない。

ガレキの山に、みんな下敷きになってしまったのさ。
兵隊も一般人も、何十人という人が死んだ。
……いや、正確には死んではいなかったんだな。

生き埋めさ。
ガレキの下で、みんな助けを呼んで叫んだのさ。
叫ぶといっても、ほとんどの人たちが虫の息じゃないか。
喉もつぶれ、言葉を吐こうにも息をすると、口から吐き出されるのはどす黒い血ばかりだった。
「お母ちゃん、痛いよ……」
「助けてぇ……助けてぇ……」

いくつもの恨めしい声が折り重なって、奇妙な合唱のように聞こえたそうだ。
彼らは助けれらることがなかった。
当時は、みんな自分が生きるのに必死だったからな。
助かる見込みのない人間たちを助けている余裕もなかったんだろうさ。

崩れた防空壕が掘り起こされたときには、みんな腐乱死体になっていたそうだ。
そして、当時は物資もなかったからな。
新しい木材を手に入れることさえ容易なことじゃなかった。
それで、防空壕はそのままにしておくことになり、半壊した校舎を修復するだけにとどまった。

誰もが、怨念だとか幽霊だとかいってられない時代だったからな。
今も防空壕の跡地には、まだ何人もの死体が埋まっているらしいよ。
校舎を修復するといっても、ほとんどは建て直しのようなものさ。
それで、防空壕のあった場所は、さすがに壁を作って埋めてしまったそうだ。

みんなが知らないだけで、この旧校舎には、そういう話がたくさん残っているんだぞ。
……もうすぐ、旧校舎を壊すだろ?
そうしたら、思わぬものが出てきたりするかもな。
……実はな、この壁にまつわる話で先生が高校生のときに体験した話があるんだけどな。

聞きたいか?
1.聞きたい
2.もう十分です


◆一話目で岩下が消えている場合
2.もう十分です


◆二話目〜五話目で何人かが消えている場合
2.もう十分です