学校であった怖い話
>七話目(細田友晴)
>AR7

僕はカッターナイフを拾った。
「こいつ!?」
黒木先生が気づき、飛びかかってきた。
体格のいい先生に、ナイフを奪われてはいけない。
僕たちは必死にもみ合った。
そして。

「ぎゃあああっ!!」
黒木先生が悲鳴をあげた。
その胸を真っ赤に染めて、ナイフが突き立っている。
「そんな……馬鹿な……!」
先生は血を吹き出しながら、ゆっくりと床に倒れた。

男……いや、死神が、その上に手をかざす。
フワッと浮き上がった光の玉が、死神の手に吸い込まれた。
今のが、黒木先生の魂?
死神は僕たちを見た。
「契約は果たされた……」

そして、ボウッと姿を消した。
まるで体が、煙に変わってしまったように。
助かったんだ……。
僕はホッとして、細田さんを助け起こそうとした。
しかし、その手は弾かれた。
「触るな、人殺し!!」
「細田さん!?」
細田さんはぶるぶると震えている。

もう少しで死ぬところだったんだから、無理もないだろう。
でも、僕を人殺しというなんて。

黒木先生が死ななければ、僕たちは二人とも死神の生け贄にされていたというのに。
「落ち着いてください、細田さん……」
僕が近寄ると、細田さんは太い腕を振り回した。
「く……来るな! 人殺し!! 誰か助けてくれぇっ!!」
その悲鳴に答えるように、廊下の

向こうから光がさし込んだ。

誰かが、懐中電灯を持って走って来るんだ。
「誰だ? ここは立入禁止だぞ!?」
聞き覚えのある声。
きっと先生だ。
そういえば、契約の日に、ちょうど黒木先生の宿直の日だなんて、できすぎている。

黒木先生は、勝手に旧校舎に来たんだろう。
そして、僕たちを見つけたんだ。
今、走ってきているのが、本当の宿直の先生なんだ。
細田さんが嬉しそうに手を振っている。
「先生! 先生! 助けてください、人殺しなんです!!」

僕は、倒れている黒木先生の亡骸を見た。
その胸に刺さったままのカッターナイフを。
そして、血まみれの自分の手を。
人殺し……。
そう、僕は人殺しだ。

どんなに話したって、この事件を理解してくれる人なんていやしない。
僕は、立入禁止の旧校舎に入り込んで、教師を襲った殺人犯なんだ。
僕を照らす懐中電灯の光は、まるで僕を捕らえる虫取り網のようだった。


       (ドクロエンド)