学校であった怖い話
>七話目(細田友晴)
>AY10

「細田さん、やめてください!」
細田さんは、ものすごい力で僕を突き飛ばした。
「何をするんだよっ! これから、すごい秘密が見れるんじゃないか! 僕はね、感じるんだよ! すごく、感じるんだよ! この中で、強大な怨念が渦巻いてるんだよ!
この学校は、昔から悪いことばかり起きていた。

悪霊がいるのさ! そいつは、この中に眠っている! ヒャーーーーッハッハッハァ!」
「……細田さん」
僕は、もう細田さんを止めることはできなかった。
懐中電灯にぽっかりと映し出された細田さんの目は血走り、ケタケタと笑っていた。

電動ノコギリのスイッチがオンになり、女の金切り声のようなモーター音が静けさを吹っ飛ばした。
「ヒャッハッハ!」
細田さんは、それを掲げるとためらう事なく壁に切りつけた。
ガリガリとけたたましい音とともに、壁は簡単に崩れていった。

壁は、全く抵抗することなく、その体内をさらけ出していく。
……暗くて、よく見えない。
細田さんは、お構いなしにノコギリを振り回し、壁に開いた穴を押し広げていく。

急に、その動きが止まった。
細田さんの手から、電動ノコギリが滑り落ちる。
「細田さん!?」

振り向いた彼の顔は、まるで別人のようだった。
目を見開き、口からよだれを垂らしている。
そして、僕を見つめてつぶやいた。
「食べ物だ……」
と。
「何をいっているんですか? どうしたんですか、細田さん」

そういいながら伸ばした腕に、細田さんは噛みついた。
丈夫そうな歯が、皮膚と肉を引きちぎる。
「うわああっ!?」
僕は、激痛のあまり、彼を突き飛ばした。
しかし、起き上がってまた、向かってくる。

どういうことだ?
本当に、僕を食べるつもりなのか?
血が流れる腕をかばいながら、僕はじりじりと後ろへ下がった。
「えへへ……おいしそうだなあ」

トロンと濁った目。
細田さんは、取りつかれてしまったんだろうか?
それなら、この行動もわかる。
でも、それなら本当に僕を食べようとするだろう。
どうすればいいんだ?

考える僕の不意をついて、細田さんが飛びかかって来た。
「うがあああっ!!」
僕はハッと避けようとして、作動したままの電動ノコギリにつまづいた。
ギュワンッ!

刃が跳ね、パアッと血しぶきが飛んだ。
焼けつくような痛み。
ノコギリの刃は、僕の腕を切り落とした。
傷が、火であぶられているように熱い。
床に落ちた腕を、細田さんは嬉しそうにかじり出した。
ぽたぽたと血が落ちる。

出血とともに、急速に体力が消えていくみたいだ。
足もふらつく。
これでは、きっと細田さんから逃げることもできないだろう。
僕はうずくまった。
ガリガリと骨を噛み砕く音が聞こえる。
生きたまま食べられるのって、どんな感じだろう。

できれば、その前に出血多量で死んでいるといいな。
少しずつ、暗闇が押し寄せて来た。
それとともに、僕の腕が食べられる不快な音も聞こえなくなってくる。
いっそのこと、歓迎したいような気分で、僕は暗闇を迎え入れた。


       (ドクロエンド)