学校であった怖い話
>七話目(岩下明美)
>J9

僕は、いわれた通り電気を消した。
もう、夕方を過ぎて夜の気配が漂っている。
電気を消すと真っ暗だ。
だんだん足音が近づいてくる。
そして、足音が最高に近づく。
僕たちは思わず息をのんだ。

その足音は、部室の前までくるとぴたりと止まった。
その足音の主は、じっとそこに立っているようだ。
だんだん暗闇に目が慣れてくるがはっきり見えるわけではない。
入り口のドアの曇りガラスを通して、ぼんやりと人影が映っているようにも見える。

そして、いきなりドアが勢い良く開かれた。
僕たちは、恐怖に言葉も出ない。
そいつは、テーブルを囲んで座っている僕たちの周りをひたひたと歩き始める。
ひたひた、ひたひたと一人一人を確認するように歩いていく。

僕は、足音が自分の背後に聞こえる度に目をぎゅっとつぶった。
そして、五回くらい僕たちの周りを回ると、そいつはすっと歩くのをやめた。
「ひっ!」
短い叫びが聞こえた。
と、その瞬間水が排水溝を流れて行くような音がした。

しばらく僕たちは、動くこともしゃべることもできずにいた。
一番最初に口を開いたのは福沢さんだ。
「ね、ねえ。もう電気をつけてもいいかしら……」
僕は答えた。
「そうだね、つけようか」

僕は、立ち上がって電気をつけようと一歩踏み出した。
そのとき、どどどどっと獣が走るような音がして、しかも僕のすぐ横をすごい風圧が通り過ぎていった。
続いて、勢い良くドアが閉まる音がした。
僕は、中腰のまま動けなかった。
「カチッ」

電気がついた。
福沢さんがつけてくれたんだ。
みんなは顔面そうはくだった。
風間さんがいった。
「ひ、日野がいないぜ……」

「ふん、おおかたその岩山ってやつに連れて行かれたんでしょ? 自業自得じゃない?」
岩下さんがけだるそうにいった。
……確かに、日野さんは連れて行かれたのかもしれない。
あの時、電気を消さなければよかった……。
岩下さんが続けていった。

「さあ、これで日野君が身を持って七話目を語ってくれたわけよね。
坂上君、後輩思いの部長をもって幸せね。面白い新聞ができるわよ。
ふふふ」


       (新聞部エンド)