学校であった怖い話
>七話目(岩下明美)
>K9

真っ暗にしてなにか起こるより、はっきりと目に見えたほうがまだ安心だ。
僕は、日野さんにいった。
「ここは、暗くしない方が正解かもしれません」
日野さんはそれでも不安そうだ。
だんだん足音が近づいてくる。

そして、足音が最高に近づく。
僕たちは思わず息をのんだ。
その足音は、部室の前までくるとぴたりと止まった。
その足音の主は、じっとそこに立っているようだ。

しかし、ドアの曇りガラスにはその姿は映っていない。
気配は確かにそこからする。
日野さんは、なにを思ったのか急にドアのほうまで歩いていった。
そして、思い切ってドアを思いっきり開けた。

……そこには、溶けかかった顔と体を持った男がいた。
四つん這いになって、日野さんを下から見上げている。
僕たちはもちろんのこと、日野さんもその場から動くことができないでいる。

「……岩山」
日野さんはそう呟いた。
そうか、これが岩山さんなんだ。
顔は、溶けかかっているのではっきりとはわからない。
岩山さんと呼ばれた人は、自分の半透明なゼリー状の体液を日野さんにからみつけていった。

そして、彼の体液が日野さんの体を全部おおう頃……。
今まで立ちすくんでいた日野さんは、くるりとこちらを向いた。
そこには見たこともない男が立っていた。
その男はこういった。

「みなさんもう日野の話でご存じでしょう。俺が岩山だ。今から俺と日野は一心同体だ。身も心も一緒さ。だが、俺のほうが日野よりも断然優位だけどな。早い話が、俺は日野を自分の中に封じ込めたってわけだ。ふふふ」
岩山さんはそういうと、自分の顔を半分からちぎって見せた。

そこには、泣きそうな日野さんの顔があった。
「俺を、ここから出してくれ!!」
日野さんが、そういい終わるか終わらないかのうちに、岩山さんは顔を元通りにくっつけてしまった。
「だから、君たち心配しなくてもいいんだよ」
岩山さんはそういって部室から出ていった。

でも、日野さんは死んだわけじゃない。
ただ自分の自由が奪われるだけか……。
でも、自分の自由にならない一生なんて、本当は死んだほうがマシなくらい辛いことかもしれないね。


       (新聞部エンド)