学校であった怖い話
>七話目(福沢玲子)
>A1

六人の話が終わった。
けれど、七人目は、まったく来る気配を見せない。
もう、これ以上待っても無駄だろう。
僕は、立ち上がり、締めのあいさつをした。
「それじゃあ、皆さん。今日はどうもありがと……」

その時、突然ドアが開いた。
「こらっ!」
みんな、飛び上がって驚いた。
怖い話をしていただけに、突然の来訪者はドキリとする。
ドアのところには、眉を吊り上げ怒っている男性が立っていた。

「黒木先生!」
突然、細田さんが立ち上がった。
……と、いうことは細田さんの知っている先生か。
「お前たち、何をやってるんだ!
もう九時を回っているんだぞ!」
「はい! すいません!」
黒木先生のあまりの迫力に、その場にいた全員が立ち上がった。

「……何をしてた?」
黒木先生は全員を見回し、僕に目を留めると、静かだけれど重く迫力のある声で問いかけてきた。
「……あ、今度、校内新聞に載せる怖い話の特集をやるんで……」
「帰れ」
僕の話は最後まで聞かず、黒木先生は僕たちを外に出るように促した。

僕たちは、急いで後片付けをすると、すぐに新聞部を飛び出した。
「まったく、こんな時間まで……」
先生は、ぶつぶつ文句をいい、そして舌打ちした。
これはとんでもなく怒られそうだ。
僕たちは部室の外に一列に整列し、しゅんと首を縮こまらせた。

「今日はもういい。話は明日だ。とっとと帰りなさい」
「はい!」
僕たちは逃げるようにして帰った。

先生は、校門までついてきた。
決して見送ってくれたのではなく、僕たちがちゃんと家路につくかどうかを見定めるためだ。
僕たちは、慌てて家に帰った。
七不思議は六不思議になってしまったが仕方ない。

約束をすっぽかして、来なかった七人目が悪いんだ。
明日、日野先輩に、ちゃんと事情を説明しなくては。
それより、明日は先生にものすごく怒られるはずだ。
嫌だなあ。
家路につく足取りが重いや。

……教師は、全員の姿が見えなくなるまで校門の前に立ち、帰るのを確実に確かめた。
いなくなってから、長いため息をつき、そして何度も舌打ちをした。

「……まったく。もう、誰も残っていないと思ったのに。まだ残っていやがるとは」
教師は、そうブツブツいいながら、誰もいなくなった夜の学校を宿直室に戻っていった。

宿直室のドアを開けると、むせ返るような血の臭いが辺りに広がった。
それもそのはず。
宿直室には、さっき殺したばかりの死体が背中に包丁を突き立てられたまま転がっていたのだから。

「ばれたら、どうしようかと思ったぜ。俺は、満月の晩、無性に人を殺したくなるんだ。せっかくいい獲物が一匹いたから、発作が収まったのに。……さてと、あとは、こいつをどうやって始末するかだな」

教師は台所に立ち、遅い夕飯の支度を始めた。
本当ならば七人目になるはずだった死体を見て、うまそうに舌なめずりをしながら……。


       (新聞部エンド)