学校であった怖い話
>四話目(新堂誠)
>P3

へえ、強気じゃないか。
お前がいいっていうなら、無理にとはいわないけどさ。
後で後悔したって、遅いんだからな。

新堂さんは、話が終わったというように腕を組んで、僕たちを見回した。
僕は呆気にとられた。
「もう……終わりなんですか?」
「清水智子の話には、興味はないんだろ。それ以外の話は、用意していないんでね」

澄ました顔で、そんなことをいっている。
でも、清水さんの話が本当なら、その恐ろしい顔を見たっていう新堂さんも、危険なはずじゃないか。
「……新堂さんは、怖くないんですか?」
そう尋ねると彼はニヤリと笑った。

「俺だけは死なないんだ。そのわけを教えてやろうとしたのに、お前が聞きたくないっていうからさ」
新堂さんだけが死なないわけ!?
「なんなんだよ、それ!?」
誰かが叫んだ。
きっと、さっき恐ろしい顔を見てしまった人なんだろう。

新堂さんは、チラリと僕を見た。
「聞きたくないんだろう。もう帰ってもいいかな」
返事も聞かず、もう立ち上がっている。
「ちょっと待ってください、新堂さん!」
「いやだね。まあ、せいぜい命を大事にしてくれよな」

からかうようにそういうと、新堂さんはドアを開けて出ていってしまった。
「新堂さん!」
僕はあわてて後を追った。

廊下を歩いていく新堂さんに追いついて、肩に手をかける。
新堂さんは、うるさそうに振り向いた。
「なんだよ。もう用はないだろ?」
「僕が悪かったです。謝りますから、部室に戻って話をしてください」
僕は深く頭を下げた。

でも、僕の頭の上で、新堂さんはクスッと鼻を鳴らした。
「もう遅い。俺の好意を無にした罰だ。清水智子の呪いを受けるんだな」
ひどすぎる!
僕が一所懸命に謝っているのに、それをあざ笑うような、この態度。
カアッと、頭に血が上った。

「勝手すぎませんか!? 自分一人だけ助かればいいなんて!」
「うるせえな」
歩き出そうとする腕を、夢中でつかんだ。
「待ってくださいってば!」
「何しやがる、放せっ!」
新堂さんが腕を振る。

それでも僕が放そうとしないと見ると、脚を蹴りあげた。
「うっ」
腹に強烈な一撃。
僕はたまらず、しゃがみ込んでしまった。
「お前がしつこいからだぜ!」

そういって、また歩き出す新堂さんの背中を僕はにらんだ。
憎しみが、胸の中で急激にふくらむ。
何かにつき動かされるように、僕は駆け出した。
無防備な背中を突き飛ばす。
新堂さんがつんのめる。

そして。
…………ガツンと、嫌な音がした。
ずるずると力無く新堂さんが崩れ落ちる。
今まで新堂さんの陰で見えなかった消火器が姿を現した。

取っ手の部分がベットリと血で濡れている。
まさか!?
僕は、新堂さんの顔をのぞき込んだ。
頭から流れるいく筋もの血にまみれてまばたきもしない半開きの目。
僕は、新堂さんを殺してしまった!?

周囲の景色がぐるぐると廻りだし僕は座り込んだ。
動かない背中を見つめる、ぼんやりした視界の中に、たくさんの人が駆け込んでくる。
騒ぎを聞きつけたんだろう。
でももう、どうでもよかった。

誰かが僕に話しかけてきたけれど、その内容もわからない。
ただ僕は、きっと送られるはずの牢獄の中にまで、清水さんの呪いは届くのだろうか……
と、それだけを考えていた。


そしてすべてが終った
              完