学校であった怖い話
>五話目(荒井昭二)
>C5

「荒井さんのいうこともわかります……。でも、風間さんは上級生なんだし、やっぱり謝った方がいいですよ」
荒井さんの表情が、サッと変わった。
僕が、自分の味方をすると信じて疑わなかったという表情だ。
心が痛んだけれど、今さらどうすることもできない。

「いやあ、さすが坂上君。僕が見込んだだけのことはあるね」
それに比べて、風間さんは上機嫌だ。
「坂上君に免じて、君を許してやることにしよう。さあ、謝りたまえ」
荒井さんは震えていた。
激しい怒りに耐えているようだった。

「僕は坂上君を信じていたのに……君も結局は、弱者をかえりみない人間だったんだ」
静かな声だったけれど、込められた怒りはよくわかる。
僕はギクッとした。
いつの間にか、荒井さんの手にはカッターナイフが握られていたのだ!
「あ、荒井さん!?」

「僕は裏切られた。謝れというなら謝ってやろうじゃないか!!」
カッターナイフが、サッと動いた。
一瞬遅れて、荒井さんの手首から真っ赤な血が吹き出した。

女の子が悲鳴をあげた。
「これが僕の謝り方です。これでいいですよね……?」
ドクドクと流れる血もそのままに、荒井さんがニヤリと笑った。
さすがの風間さんも、言葉がない。
「こんな血でも、喜ぶヤツはいるものです。

そういうヤツらが臭いをかぎつけて、ここへやってくるかもしれませんね……」
そういって、荒井さんは静かに座った。
女の子が荒井さんにハンカチを渡したが、そんなものでは止まりそうにない出血だ。
このままお開きにしようか……。

そんな考えが頭をよぎった。
「駄目ですよ、坂上君。続けてください」
荒井さんの声。
僕の心を読んだというのか!?

奇妙に光る荒井さんの目を見ているうちに、逆らわない方がいいという気がしてきた。
血の臭いが立ちこめる部屋で、僕たちは最後の話を聞くことにした……。


       (六話目に続く)