学校であった怖い話
>五話目(荒井昭二)
>G5

僕は足を持つことにした。
腕は、風間さんともう一人だ。
残りの人は交代要員に決まった。
まだ温かみの残っている足を抱えあげる。
あきらかに人間の体なのに、もう生命が感じられないという不思議な感覚。

持ったところからグジュグジュと腐っていきそうで、吐き気がした。
荒井さんに背中を向け、担架を運ぶ救急隊員のような体勢になる。
やっぱり、顔は見たくなかったからだ。

暗い、誰もいない廊下に出る。
見られはしないかと、ついキョロキョロしてしまう。
荒井さんは小柄なのに、どうしてこんなに重いんだろう。
外国のオカルト研究家かなにかが大きな体重計の上に重病人を乗せて魂の重さを量ったという話を思い出した。

病人が死んだ瞬間、体重は軽くなった。
だから、魂にも重量はある……というのがその人の主張だったらしい。
でもそれなら、どうしてこの体はこんなに重いんだ?
生きているときよりも、重くなっているのではないかとさえ思える。

汗で手がすべる。
だけど離してしまったら、もう二度と持ち上げられないような気がした。
額にも汗が流れているが、それを拭うことさえできない。

でも、なんとか階段までたどり着いた。
この階段を下りたら交代してもらおう。
僕はそう思った。
ゆっくりと下りる。
ぼんやりした明かりに照らされて、僕たちの影が、壁の上をうごめいている。

それはなんだか、不気味な生き物のようにも見えた。
そんなことを思ったとき。
背後で、ものすごい悲鳴がした。
何が起こったんだ!?
それと同時に、背中になにか重いものが落ちてきた。

階段を踏み外しかけて、あわてて踏ん張る。
その僕の肩に、もう少し軽い衝撃。
なんなんだ、いったい!?

振り向いた僕の目に、荒井さんの顔が飛び込んできた。
僕の肩にあごを乗せ、目をつぶっている。
……心臓が止まるかと思った。
でも、すぐに気がついた。
風間さんたちが、階段で転びそうになったんだろう。

それで腕を離してしまった。
だから、荒井さんの上半身が、僕の背中に倒れかかってきたんだ。
おかげで、危うく僕まで転ぶところだった。
それでなくても、死体をおぶっていると思うと気分が悪い。
「ひどいですよ……」

僕が文句をいおうとしたそのとき。
荒井さんの目が見開かれて僕を見た!
口元から、血がスウッと流れて落ちる!
「うわ……」
放り出そうとした僕の胴に、血の気の失せた脚が巻きつく。
僕はバランスを崩して、暗い虚空に飛び出した。

荒井さんは死んでいなかったのか!?
怒りのあまり生き返ったのか!?
さまざまな疑問が、頭の中に渦巻く。
でも、それもほんの一瞬。
固い床が目の前いっぱいに広がり激しい衝撃が襲ってきた。

そして、僕の意識はブラックアウトした。


そしてすべてが終った
              完