学校であった怖い話
>五話目(荒井昭二)
>H6

僕は、荒井さんの顔の上に手をかざした。
わずかだけど、呼吸をしている。
体を動かしたことが、結果的によかったのだろうか?
荒井さんのまぶたが、ピクピクと動いた。
息を吹き返したんだ。

でも、そのとき僕はハッとした。
荒井さんが気がついて、この状況を見たらどう思うだろう。
病院に連れていく途中には見えない。
ひょっとして、焼却炉に連れていこうとしていたのがバレてしまったら?

荒井さんは怒るだろう。
僕たちを警察に訴えるかもしれない。
それはまずい!
かーっと頭に血が上った。
廊下の隅に消火器がある。

それを見て取った瞬間、僕はもう、何がなんだかわからなくなってしまった。
…………気がついたとき、僕は血のついた消火器を抱えていた。
目の前に血まみれの荒井さんが倒れている。
今度こそ死んでしまっただろうな。

ボンヤリと考える僕に、風間さんがくってかかる。
「何を考えているんだ、せっかく生き返ったのに! 殺したのは君だからな!」
風間さんがいい終わる前に、廊下の向こうから声がした。
「そこで何をしているんだ!?」

宿直の先生の声だ。
風間さんは、さっきまでの立場を忘れたように大声を上げた。
「大変です、先生! 来てください!!」
僕は殺人犯になってしまった。
風間さんを恨む気持ちも起こらない。

もう、どうなってもいいんだ……。
僕は逃げもせず、駆け寄ってくる先生を見つめていた。


そしてすべてが終った
              完