学校であった怖い話
>五話目(荒井昭二)
>I7

僕は風間さんを選んだ。
袖をつかんで、思いっきり引っ張る。
火だるまの荒井さんが僕をにらんだ。
ゾッとした。
生きている人間の目ではなかったから。

荒井さんはものすごい力で引っ張り返した。
逆に引きずられそうになる。
でもそのとき、僕のベルトを誰かがつかんでくれた。
それに勇気を得て、僕は力を振り絞った。
すると突然、向こうの力がフッと消えた。

反動で、僕たちは風間さんごと、地面に倒れ込んでしまった。
荒井さんの腕が、焼け落ちてしまったんだ。
炎に包まれた荒井さんは、恨めしそうに僕を見ていた。
そして、ゆっくりと荒ぶる炎に飲み込まれていった…………。

風間さんのヤケドは大したことなかった。
このまま黙っていれば、荒井さんは行方不明ということになるだろう……。
こうするしかなかったんだ。

僕たちは何もいわず、学校を出た。
きっと明日も明後日も、そしてその後も僕たちは沈黙をまもるだろう。
そうすることだけが、身を守る唯一の手段なのだと、僕たちは知っていた。

…………これで話は終わるはずだった。
だけど。
そうはいかない理由ができたんだ。
荒井さんは僕に怒っている。
どうして風間さんじゃなくて僕なのか、不思議だったけど……。

きっと荒井さんは、僕を自分の味方だと信じていてくれたんだろう。
だから、僕が風間さんに協力したことを怒っているんだ。
裏切られたと思っているのかもしれない。
荒井さんは怒って…………僕に取りついた。

昼も夜も、僕につきまとって離れない。
幽霊を信じない人には、彼への罪の意識が見せる幻覚だとしか思えないんだろうな。
でも、そうじゃない。
僕には……僕だけにはわかる。

いや、少しでも霊感がある人になら、きっと彼の姿が見えるはずだ。
今だって、こうしてすぐ側にいるんだから。
……ほらね。


そしてすべてが終った
              完