学校であった怖い話
>七話目(細田友晴)
>2C1

◆青い蝶の群れ

……私は、自分を死に追いやった彼らには手を出さなかった。
それよりも、その子供を死に追いやることで私は救われると思った。
そうすることで、醜くゆがんだ自分自身の心が洗われるような気がしたわ。

ひどいかしら?
……私はひどいと思う?
ふふふ、なんとでも思ってちょうだい。

……ただこれだけは覚えておいて。
あなたが罪を犯したとき、その責任を取るのが、あなただとは限らないということ。
思いがけないことで、あなたの犯した罪を償わされることもあるのよ。
それは、その時に悔やんでも遅いから。

でも、もういいのよ。
なにもかも……。
私、目的は達成されたけど、もう救われなくてもいいと思ってる。
……こんな身になっても、人間と同じ心が芽生えるなんて思っていなかったけど。

あの子たちがいじめを快感だと思ったように。
そして、それが癖になったように。
私は、人を恐怖のふちにたたき落とすことが快感になってしまった。
そう、快感ていうのはなんにおいても感じることができるのよ。

困ったものよね。
こうやって、この学校で自分だけの快感だけを追い求めてゆくことにしたから。
大丈夫よ。
あなたにはなにもしない。

あなたは、いい人だわ。
私には、わかるのよ……。
彼女は、くるりと僕に背を向けた。

そして、窓を開けて夜が明け始めた東の空を見上げていた。
仮面の中で、彼女はどんな表情をしているのだろう。
彼女は、再び仮面に手を添える。
今度は、ためらうことなくその仮面をゆっくりと取り去った。

そして、また空を見上げていた。
……もし私が、あなたと同じときを生きることができたら、きっといい友達になれたわね……。
そんな、彼女の呟きが聞こえたような気がした。

そして、ゆっくりと僕のほうを振り返った。
ちょうどその時、一筋の朝日が差し込んだ。
彼女の顔が光に照らされる……。
すると、彼女の顔が一瞬ザワッと揺らめいた。
「!?」

そして、何十匹何百匹もの蝶が彼女の顔から飛びだした。
僕の回りを囲むように蝶は飛び周る。
そんなにたくさんの蝶は、普通気持ち悪いと思うものだがなんと幻想的なことか……。

それは、今までに見たことがない青い蝶だった。
蝶は、朝日を受けて舞っている。
そして、その蝶は窓の外に向かいいっせいに飛び出した。
からんという仮面の落ちる音がして、僕は我に返った。

仮面が揺れて落ちたとき、もう彼女はいなくなっていた。
蝶とともに、彼女は消えたのだ。
僕は幻を見たのか、それとも夢を見たのか……。
ふと見ると、僕の周りを名残おしそうに飛んでいる、一匹の蝶がいた。
すでに、朝日は完全に顔を出していた。

誰もいない朝の旧校舎を、ひとり歩きながら僕はいろいろと考えた。
彼女の存在、彼女のいった言葉、そしてあの六人のことを。
とても、数時間前にあの集まりがあったとは思えない。

もっとはるか昔の記憶、記憶を正確にたどることができないほど昔に体験したことのようにも思える。
あの六人は、本当にいたのか?
そもそも、あれ自体が僕の夢だったのか?

……だとすると、僕はいつから夢を見ていたのだろうか。
そして、いつ夢は終わったのだろうか。
いや、夢はまだ続いているのかもしれない。
ただ一つ、はっきりしていることがある。

僕の右手には、あの仮面が握られている。
……この旧校舎も、あと数日で取り壊されてしまうのだなあ。
僕にとって、別に懐かしくもない旧校舎が妙に哀愁を感じさせた。
この旧校舎がまだできたばかりの真新しかったころから知っていたようなそんな錯覚に陥ってしまう。

僕が、旧校舎の外に出ると、いつの間にか右手に持っていたはずの仮面がなくなっていた。
僕は改めて旧校舎に目を留めた。
この旧校舎が消えてなくならないことを、僕はなぜか祈っていた。
夢なら、覚めないように……。


       (新聞部エンド)