学校であった怖い話
>七話目(細田友晴)
>2D2

「違う。君は、ひどくないよ……」
僕は、なぜかそう答えていた。
……ありがとう。
私は、もうなにも思い残すことはないわ。
このまま、成仏しようが地獄に堕ちようが、もうどうでもいいことよ。

私のいう、救われるっていう意味がよくわからないようね。
救われるというのは、私の魂のことではないわ。
私が死んで、この世の者でなくなっても心はちゃんと残っている。
その、私自身の心が救われるのよ。

さあ、もう時間だわ……。
僕は、黙って彼女の話に耳を傾けていた。
彼女は、空をぐるっとあおいだ。
まるで何年も、空を見ることを忘れていた人のように……。

彼女の顔は、仮面で見えないが僕にはそういうふうに感じた。
彼女は僕の方を向き直す。
そして、今度は僕に問うことなく、その仮面を取り去った。

彼女の仮面の奥には……………………。
とても、言葉ではいいあらわせないほどの美しい顔があった。
透き通るような白い肌と薄桃色のほほ。
そして、僕をまっすぐ見据える黒目がちな瞳……。

その瞳は、なんの迷いも悩みも感じさせないほど深く澄んでいた。
その顔は僕を見て微笑んだ。
僕は、その瞳から目をそらすことはなかった。
……その時。
彼女の顔が急に崩れ始めた。

ロウが熱で流れ落ちるように、彼女の顔は溶けて流れた。
その奥には暗く深い闇があった。
僕は、その闇に吸い込まれそうになる。
からんという仮面の落ちる音がし僕は我に返る。

僕は、彼女の顔が変化しても動ずることなく、その様子を見守ることができた。
彼女は、幽霊でもなく化け物でもない。
あれは、彼女の心……。
仮面が床に落ちて揺れたとき、もう彼女はいなくなっていた。

僕は幻を見たのか、それとも夢を見たのか……。
すでに朝日が顔を見せていた。

誰もいない朝の旧校舎を、ひとり歩きながら僕はいろいろと考えた。
彼女の存在、彼女のいった言葉、そしてあの六人のことを。
とても、数時間前にあの集まりがあったとは思えない。

もっとはるか昔の記憶、記憶を正確にたどることができないほど昔に体験したことのようにも思える。
あの六人は、本当にいたのか?
そもそも、あれ自体が僕の夢だったのか?

……だとすると、僕はいつから夢を見ていたのだろうか。
そして、いつ夢は終わったのだろうか。
いや、夢はまだ続いているのかもしれない。
ただ一つ、はっきりしていることがある。

僕の右手には、あの仮面が握られている。
……この旧校舎も、あと数日で取り壊されてしまうのだなあ。
僕にとって、別に懐かしくもない旧校舎が妙に哀愁を感じさせた。
この旧校舎がまだできたばかりの真新しかったころから知っていたようなそんな錯覚に陥ってしまう。

僕が、旧校舎の外に出ると、いつの間にか右手に持っていたはずの仮面がなくなっていた。
僕は改めて旧校舎に目を留めた。
この旧校舎が消えてなくならないことを、僕はなぜか祈っていた。
夢なら、覚めないように……。


       (新聞部エンド)