学校であった怖い話
>七話目(細田友晴)
>2F1

◆暗黒の小宇宙

なにも、子供たちを殺すことはなかった……そう思ってるのかな?
坂上君、あなたはいじめっ子?
それとも、いじめられっ子?
もしかしたら、何もしないで黙ってみているタイプかな?

どうでもいいけどさ。
……ただこれだけは覚えておいて。
あなたが罪を犯したとき、その責任を取るのが、あなただとは限らないということ。
思いがけないことで、あなたの犯した罪を償わされることもあるのよ。

それは、その時に悔やんでも遅いから。
あなたは、いい人だわ。
……だから、悔いのない人生を送ってね。
私、あなたも連れていこうかと思ったけれど、やめた。
一緒に遊んでほしいと思ったけれど、やめることにしたよ。

さよなら、坂上君。
私のこと、悪い子だと思ってるだろうけど、私だって悔しかったんだよ。
悲しかったんだよ。
いじめっ子には、いじめられっ子の気持ちがわからないんだもの。

僕は、黙って彼女の話に耳を傾けていた。
彼女は、またため息をついた。
けれど、それは先ほどのような悲しみに満ちたものではなく、自分に踏ん切りをつけるような、切れのいいものだった。

彼女は再び仮面に両手を添えた。
そして、今度は僕に問うことなく、その仮面を取り去った。

彼女の仮面の奥には……………………顔がなかった。
顔の輪郭の中には、ただ暗黒が立ちこめていた。
その暗黒の中に、きらきらと輝く無数の粒子があった。

それは、星だった。
その暗黒は、宇宙だった。
彼女の中に、一つの宇宙がある。
僕は、しばらくの間、その小宇宙に見入っていた。

からんという仮面の落ちる音がし僕は我に返った。
もしその音がしなければ、僕はその小宇宙の住人となり、いつまでも見入っていたに違いない。
仮面が床に落ちて揺れたとき、もう彼女はいなくなっていた。
小宇宙とともに、彼女は消えたのだ。

僕は幻を見たのか、それとも夢を見たのか……。
すでに朝日が顔を見せていた。

誰もいない朝の旧校舎を、ひとり歩きながら僕はいろいろと考えた。
彼女の存在、彼女のいった言葉、そしてあの六人のことを。
とても、数時間前にあの集まりがあったとは思えない。

もっとはるか昔の記憶、記憶を正確にたどることができないほど昔に体験したことのようにも思える。
あの六人は、本当にいたのか?
そもそも、あれ自体が僕の夢だったのか?

……だとすると、僕はいつから夢を見ていたのだろうか。
そして、いつ夢は終わったのだろうか。
いや、夢はまだ続いているのかもしれない。
ただ一つ、はっきりしていることがある。

僕の右手には、あの仮面が握られている。
……この旧校舎も、あと数日で取り壊されてしまうのだなあ。
僕にとって、別に懐かしくもない旧校舎が妙に哀愁を感じさせた。
この旧校舎がまだできたばかりの真新しかったころから知っていたようなそんな錯覚に陥ってしまう。

僕が、旧校舎の外に出ると、いつの間にか右手に持っていたはずの仮面がなくなっていた。
僕は改めて旧校舎に目を留めた。
この旧校舎が消えてなくならないことを、僕はなぜか祈っていた。
夢なら、覚めないように……。


       (新聞部エンド)