学校であった怖い話
>四話目(岩下明美)
>B12

ちょっと、なにシカトしてるのよ。
話を聞きたいっていったのは、あなたでしょう?
私たちは、頼まれて話をしてあげているのよ。
失礼だと思わないの?
私だって暇じゃないのよ。
あくまでも、そんな態度でいるわけ……?

ふふふ、後で後悔してもしらないわよ。
まあ、取りあえず気を取り直して話を続けるわね。
私が、なんでこの話を知っているか教えてあげる……。
簡単なことよ。
だって、私は、この桜の……いいえ、あの二人のしもべなのよ……。

あの二人は、毎晩のように私の夢に出てくるの。
その夢を見始めたのは、私が一年生の時よ。
そして、あの二人は私に話をするの。
私は、桜の枝に座って色々な話を聞いていたわ。
毎晩といっていいほど、夢の中で鮮明な画像と共に繰り広げられ

るあの二人の話。

毎晩、あの二人の苦痛に満ちた顔が、目の前いっぱいに現れる……。
いくら目を閉じても、まぶたを通して浮き上がってくる恐怖の形相はいつも私を見つめていたわ。
夢だから……?
いいえ、私が普通に生活しているときも、こうやって目を閉じると……。

さすがに最初は怯えたわ。
夜が来るのが怖かった……。
でも、今はもう平気よ。
あんなものでも、慣れるとどうってことないのよね。
ふふふ。

そして、二人はいつも夢の最後に、
「お前は、私達に選ばれた人間なのだ。この三年間は、私達のしもべとなれ。そして毎年一人、この学校の生徒を生けにえとしてこの桜に差し出すのだ。もし、差し出さなかったら、お前が代わりに生けにえになってしまうのだぞ。よいな……」

そうよ、この三年間に毎年一人生けにえを差し出せば、私はこの二人と桜の呪縛から開放されるのよ。
さもなくば……。
怖がらないで!
別に、あなたを生けにえにしようなんて考えてないから……。

だって私、もう三人目の生けにえを差し出したあとだもの。
ふふふ。
……まだ、わからないようね。
私のあとを継ぐ者が必要なだけなのよ。
私が卒業してしまうまでにね。

ああ、なにか感じるわ!
桜が……、あの二人が私になにかを語りかけてきている!
なにが言いたいの?
なにを言おうとしているの?
……そう、そうなの?
わかったわ……。

あなたは、私のあとを継ぐ者として二人に選ばれたようね。
私にはわかるの……。
あの二人も、そのことを喜んでくれているみたい。
新しいしもべの誕生に……。
信じなければそれでいいの。あなたが犠牲になるだけなんだから。

そして、あなたも毎晩あの夢を見るのよ。
あの二人の、恐怖の形相もね。
大丈夫よ、すぐ慣れるから。
あとね、さっき私に約束してくれたことがあったでしょう?
約束、守ってくれてありがとう。

あの約束を守ってくれることも、選ばれる条件の一つだったの。
……うれしいわ。
ふふっ、誰かに話したってムダよ。
おかしいんじゃないかって、相手にされないのはわかりきっていることよ。

そこのところを、よく覚えておくことね。
最後に、あなたのさっきのあの態度にね、私、すっごく腹が立ったけれど許してあげる。
だって、こうやって私は自由になれたんだもの。
腹を立てたことが、どこかに飛んでいってしまうくらいだわ!

ふふふっ。
あなたに、ありがとうってお礼をいわなきゃね……。
ああっ、またなにか感じるわ!
あ、頭が…い…た…い……。
ううっ、頭が割れる!

……ええ、すぐ治ると思うから心配しないでちょうだい。
きっと、このひどい頭痛が治る頃には、今までの忌まわしい記憶はすっかりなくなってるのよ。
きっと……。

大丈夫よ、一人で歩けるわ……。
まだ、みんなの話を聞かないといけないし。
さあ、部室に戻りましょう……。


       (五話目に続く)