学校であった怖い話
>四話目(岩下明美)
>D10

広岡さんは、催眠術でもかかられているように桜の言っていることを聞いていたわ。
折原さんは、我に返ったのかその光景を冷静に見ることが出来たのね。
目を見ると、かなりいってしまっているようなの。

どう見ても、いい感じに見てとれないこの光景に不安を感じて、彼の肩をつかんだの。
「広岡さん正気に戻ってください! 今、ここで桜のいう通りにしたらどうなるかわかったものじゃない! お願い! 元に、元に戻ってください!」
遠くを見つめているような彼の目は、元に戻る気配はない。

それでも、彼女は彼の肩を揺すったり叩いたりしたのよ。
一秒でも早く、彼とここを抜け出すことだけを考えていたわ。
そして、彼が、ふと思い立ったようにこちらを向いたのよ。
「早くここから逃げましょう!」

彼女は、彼の手を取り走り出したの。
その時、彼は彼女の手を思いきり握りしめてきたわ。
そして、彼は逃げるでもなく、そこにとどまったままなの。
「どうしたんですか!! きゃっ!!」

彼女は振り向き様、彼に力強く抱き寄せられたの。
彼女は、思わずドキッとしたわ。
恐怖心で、恥ずかしさなんて忘れていたけれども、今は胸が高鳴っているのが自分でもよくわかる。

こんなシチュエーションでなければどんなにか嬉しいでしょうね。
だけど彼は、彼女を抱き寄せたまま動こうとしないのよ。
彼女は、彼の顔を見上げたの。
彼は、相変わらず遠くを見たままだったわ。
「しっかりしてください! 広岡さん!」

彼女は、彼に声をかけたわ。
すると、今まで遠くを見ていた彼の目がぎろっと彼女をとらえたの。
いつもあんなに優しくて穏やかな広岡さんとはまるで別人のよう。
「僕達は責任をとるんだよ……。さあ……」

そして彼は、彼女に無理やり口づけをしたのよ。
「うぐぐっ……」
目の前に見える、彼の顔の恐ろしさに耐えきれず、彼女は思わず目をぎゅっとつぶったわ。
その時。
「きゃーっ!」

突然、土の中から四本の手が伸びてきたの。
その手は、二人の足首をがっちりとつかんだわ。
二人が驚いて足元を見ると、土がもぞもぞと盛り上がって、その中から二つの顔が出てきた。

それは紛れもなく、首吊り死体で発見された二人の顔だったわ。
「これが、責任を取るということだ」
桜の精霊は冷たく言い放った。
そして、二人はそのまま土中に引きずり込まれていった。

「お前たちは、永遠の愛を誓った。
しかし、永遠とはもろく、はかない。
永遠のときを保ち続けたいのなら毎年一人ずつ私に生けにえを連れてこい……」
それが、二人が最後に耳にした言葉だった。
坂上君、土の中から手が出てきたのは、今あなたのいる辺りよ。

その辺から、出てきたの。
うふふふふ……。
これが、この木にまつわる本当のお話よ。
今も、広岡さんと折原さんの二人は、永遠の愛を保ち続けるために、毎年一人ずつ生けにえを差し出しているのよ。

さあ、今年は誰がなるのかしら?
坂上君、あなたかもしれないわね?
1.そんな話は嘘だという
2.もう部室に戻ろうという