学校であった怖い話
>七話目(風間・岩下)
>C9

……誰もが犯人に思える。
……けれど、確実な証拠はない。
僕は、この中から犠牲者を一人出さなければいけない。
どのみち、ここで一人を指名しなければいけないのか……。
そして、僕は決めた。

……新堂誠。
いや、よく考えたら僕には一人だけなんてやっぱり選べない。
僕はどうしたらいいんだ!!
<どうした? 早く選べ……。さもなくば……>

僕の頭の中に彼の声が響く。
そして、神田さんであろうその男はロボットのようなぎこちない動きで部室に進入してきた。
<早く……、早く選ぶんだ>
もうだめだ。

その時、部室の入り口で叫ぶ人がいた。
「神田!! 神田だろ? お前どうして?」
日野さんだった。
きっと、彼は僕たちのようすを見にきてくれたんだと思う。

でも、日野さんは彼には首がないのに神田さんだってよくわかったな。
彼の顔から血が引いていくのがよくわかった。
歯が、がちがち震えて音が聞こえる。

「俺のことを恨んで出てきたのか……。浮かばれないのも無理はない。
だけど、お前も悪いんだ!! 俺のことをないがしろにするから……」
日野さんはそういって、涙をボロボロこぼした。

「俺たちは、あんなに仲がよかったじゃないか。それがなんだ。女になんかうつつを抜かして……。俺は我慢できなくなって、お前に自分の想いを告白した。しかし、お前はそれから俺のことをさけるようになっていった。

俺のことを、汚いものを見るような目つきで見やがって。岩下や福沢の想いは受けとめることができるのに、俺の想いは受け取ることができないんだ!! どうして拒否するんだ!!」

そして、日野さんは首なしの神田さんに抱きついた。
「お前だけは、絶対にほかの人には渡さない!!」
そういって、日野さんは彼を抱き上げた。

「こんな、姿になっても。俺はお前のことを愛しているからね」
日野さんは、神田さんのちぎれた首の断面にほほをすりつけた。
とても愛しそうに……。

そして、日野さんは彼を抱えたまま廊下を走り去っていった。
さすがの岩下さんも、福沢さんも言葉を失っていた。
……日野さんが、異性との恋愛ができない人だったとは。
でも、考えてみれば異性か同性かの違いだけで、その人が誰を愛そうと関係ないのかもしれないな。

元木さんがいった。
「この展開は、おばあちゃんにも予想できなかったみたい。でも、坂上君が無事でよかった。本当に……」
僕は、彼女の手を確かめるように、いっそう強く握っていた。

彼女は笑っていた。
僕は、大きくうなずいた。
すべては終わったのだ。

……それから一週間がたった。
あれ以来、彼らと会うことは一度もなかった。
日野さんは学校の脇を流れる川で、水死体で見つかった。
結局、自殺したということで事件はおさまったらしいが……。

「坂上くーーーん!」

……あ、早苗ちゃんだ。
早苗ちゃんが、手を振りながらこっちに走ってくる。
時計を見た。
約束の時間ぴったりだった。
あれ以来、早苗ちゃんとは、よく話すようになった。

素直でいい子だ思う。
彼女の中に住んでいるというおばあちゃんやおじいちゃんの話を、僕は全面的に信じているわけではないが、彼女が不思議な能力を持っているのは間違いないことだと思う。

そして、偶然では片付けられない運命というものを、僕は彼女と出会ったことにより信じられるようになった。
本当に僕と早苗ちゃんが結婚するかどうかは、まだ先のことだからわからない。
けれど、今は彼女を大事にしようと思う。

……そういえば昨日、学校の七不思議の特集の原稿をまとめた。
七話目をどうしようか迷ったが、さすがにあの部室での出来事は書けなかった。
仕方ないので代わりに、『七つ目の話を聞くと悪いことが起きる。だから、ここに書くことはできない』
と、記しておいた。

学校の七不思議をすべて聞くと悪いことが起きる……。
そういう噂は、どこの学校にもあるようだから。
僕は、あのときの出来事を、今後、誰にも話すことはないだろう……。


       (新聞部エンド)