学校であった怖い話
>七話目(風間・岩下)
>E9

……誰もが犯人に思える。
……けれど、確実な証拠はない。
僕は、この中から犠牲者を一人出さなければいけない。
どのみち、ここで一人を指名しなければ、みんなが殺されてしまうかもしれない。
その時、ふと一人の名前が浮かんだ。

……荒井昭二。
僕は、心の中でかぶりを振った。
彼は、なんにも関係ない人じゃないか。
そんな人を犠牲にして、なんになるというんだ。
<わかった。荒井昭二だな……>
神田さんであろう声が、僕の頭の中に響いてきた。
<ち、違う! そうじゃない! 彼じゃないんだ!>
僕は心の中で叫んだ。

しかし、もう神田さんの声は僕の頭に聞こえてくることはなかった。
僕は、なんてことを思ってしまったんだ。
取り返しがつかないことをしてしまった。
僕は無意識に、握っていた元木さんの手を強く握りしめた。

彼女は、僕の目をじっと見つめている。
なにか、僕の心の中を全部知っているような瞳をしている。
そして、神田さんが、ぎこちない歩きで部室内に進入してきた。
このままでは本当に危険だ。

その時。
僕の手を握っていた元木さんの身体が、ガクガクと激しく揺れ始めた。
「元木さん!」
思わず叫んだが、彼女の反応はない。
まるで誰かに乗っ取られているように、彼女の意識はなかった。

突然、彼女の口から白い煙のようなものが現れた。
その煙の中に、とても恐ろしい形相をした女の顔が浮かんだ。
浮かぶやいなや、そいつが神田さんに襲いかかったのだ。
怨霊の悔しそうな呻き声が、部室内にとどろいた。

……そして、そいつはいなくなった。
頭のない学生服の男は、まるで幻のように消えてしまった。
そして、それを見届けると、煙の中に浮かんでいた鬼のような形相をした顔は、とても穏やかな優しい顔に変化し、するすると元木さんの口の中に吸い込まれていった。

……僕は夢を見ているようだった。
「元木さん! ……早苗ちゃん!」
がっくりと崩れ落ちた彼女の体を僕は支えた。
そして、肩を揺すった。
彼女は、眠たそうな声を漏らすと、ゆっくりと目を開けた。

「……おばあちゃんが、もう大丈夫だって。
よかったね、誰も死ななくて」
彼女は笑っていた。
僕は、大きくうなずいた。
すべては終わったのだ。

……それから一週間がたった。
あれ以来、彼らと会うことは一度もなかった。
結局、神田さんを誰が殺したのか、それ以前に自殺だったのか他殺だったのかもわからなかった。

……人間は、誰もが悪の心を持っている。
それを抑えるのが自制心だ。
でも、自制心のちょっとした隙を見つけて、悪の心が時折姿を見せることがある。
……結局、僕は誰を責めることもできない。

神田さんとの間にどんな真実があったにせよ。
それを追求する役目は僕にはないからだ。
もし、人間としての良心の呵責を感じるのならば、あとは自分で罪を償えばよい。
「坂上くーーーん!」

……あ、早苗ちゃんだ。
早苗ちゃんが、手を振りながらこっちに走ってくる。
時計を見た。
約束の時間ぴったりだった。
あれ以来、早苗ちゃんとは、よく話すようになった。

素直でいい子だ思う。
彼女の中に住んでいるというおばあちゃんやおじいちゃんの話を、僕は全面的に信じているわけではないが、彼女が不思議な能力を持っているのは間違いないことだと思う。

そして、偶然では片付けられない運命というものを、僕は彼女と出会ったことにより信じられるようになった。
本当に僕と早苗ちゃんが結婚するかどうかは、まだ先のことだからわからない。
けれど、今は彼女を大事にしようと思う。

……そういえば昨日、学校の七不思議の特集の原稿をまとめた。
七話目をどうしようか迷ったが、さすがにあの部室での出来事は書けなかった。
仕方ないので代わりに、『七つ目の話を聞くと悪いことが起きる。だから、ここに書くことはできない』
と、記しておいた。

学校の七不思議をすべて聞くと悪いことが起きる……。
そういう噂は、どこの学校にもあるようだから。
僕は、あのときの出来事を、今後、誰にも話すことはないだろう……。


       (新聞部エンド)