学校であった怖い話
>七話目(風間・岩下)
>F9

……誰もが犯人に思える。
……けれど、確実な証拠はない。
僕は、この中から犠牲者を一人出さなければいけない。
どのみち、ここで一人を指名しなければ、みんなが殺されてしまうかもしれない。
そして、僕は決めた。

……福沢さんだ。
彼女は、岩下さんのことをものすごく恨んでいる。
そんな岩下さんのことで、彼を恨むこともあったろう。
愛していたからよけいに……。

……そうだ、福沢さんが神田さんを殺したかもしれない。
僕は、彼女を選んでしまったということを自分の中で正当化しようとしていた。

<福沢玲子さんです……>
僕は頭の中でつぶやいた。
<……わかった>
返事らしき声が僕の頭の中で響く。

そして、神田さんであろうその人はロボットのようにぎこちなく歩き出した。
ぱたっぱたっと足音を響かせて、みんなの周りを歩く。
みんな、目をつぶり強くこぶしを作っている。

みんなの、自分の後ろでは止まらないでくれという叫びが聞こえてくるようだ。
……本当に僕がいった人を殺すのか?
しばらく、神田さんは歩いていた。
首がないのによく歩けるものだ。

感覚でわかるのか。
どのみち、もうこの世のものではないが。
そして、福沢さんの後ろでピタッと止まった。
や、やっぱりそうだ。
本当だった。

その時、明かりがぱっと消えた。
と、同時にものすごい叫びと、なにかをへし折るような音が聞こえる。
暗闇で、なにかが起きるというのはいいものじゃない。
なにかが、確実に起こっているのに動くことすらできない。
すると、ほどなく電気がついた。

「ひっ!!」
僕たちは、声にならない叫びを上げていた。
そこには、首をもがれて倒れている福沢さんの死体が転がっていた。

まだ、ちぎれた首の動脈からは血が吹き出している。
体もまだけいれんしているようだ。
そして、僕たちは凍りついた。

部室の入り口に、神田さんが立っていた。
そう、ちぎった福沢さんの首をつけてね……。
<僕の首ができたよ。誰でもよかったんだ。だが、運のいいことに僕を殺したやつになるとはね。これでやっと救われる>

神田さんは、福沢さんの顔で僕のほうを見ていた。
そして、くるりと背中を向けた。
神田さんは、おかっぱ頭の学生服を着た生徒に見える。
彼は、そのまま廊下に消えていった。

僕は、本当に彼女を指名してよかったのだろうか?
しかし、神田さんはいっていた。
彼女が自分を殺したと……。

でも、もし他の人を指名していたら僕は……。
ぶるっと身震いをした。
ふと見ると、元木さんが泣いている。

「誰も、死なせないつもりでいたのに! 私は、そのつもりでここにきたのに! おばあちゃん、大事なときに助けてくれなかった……」
もともと僕が、彼女を選んだからこうなってしまったわけだ。

「元木さんは、なにも悪くない。むしろ、僕たちを助けようとしてくれたんだから」
僕は元木さんをなぐさめた。
本当は自分が一番泣きたいのに。

その時。
僕の手を握っていた元木さんの身体が、ガクガクと激しく揺れ始めた。
「元木さん!」
思わず叫んだが、彼女の反応はない。
まるで誰かに乗っ取られているように、彼女の意識はなかった。

突然、彼女の口から白い煙のようなものが現れた。
そのもやは、福沢さんの死体に吸い込まれるように消えた。

その瞬間、首なしの福沢さんがぴくんと動いた。
そして、すくっと立ち上がった。僕たちは、動くこともできずに彼女の行動を見守る。
ぎこちない歩き方で彼女は廊下に出ていくと、そのままものすごいスピードで走り去っていった。

夜の校舎を、しっ走する首なし死体……。
しばらくの沈黙が流れた。
元木さんが静かにいった。

「あれは、おじいちゃんが死体の始末をしてくれたのよ。私たちが困らないように」
すべては終わったのだ。
ここでのできごとは、六人の秘密ということで話はついた。

まあ、そんな約束をしなくても、みんなは誰も人に話すわけがない。
話したところでどうなるわけでもない。
疑われるのは自分だから……。
ほどなく、福沢さんは学校の近くの土手で発見されたそうだ。

結局、変質者のしわざということで事件は解決した。
あれは、高校生の僕たちにはショックが大きすぎた。

……そして、あのいまわしい事件からちょうど一週間目の放課後。
「坂上くーーーん!」

……あ、早苗ちゃんだ。
早苗ちゃんが、手を振りながらこっちに走ってくる。
時計を見た。
約束の時間ぴったりだった。
あれ以来、早苗ちゃんとは、よく話すようになった。

素直でいい子だ思う。
彼女の中に住んでいるというおばあちゃんやおじいちゃんの話を、僕は全面的に信じているわけではないが、彼女が不思議な能力を持っているのは間違いないことだと思う。

そして、偶然では片付けられない運命というものを、僕は彼女と出会ったことにより信じられるようになった。
本当に僕と早苗ちゃんが結婚するかどうかは、まだ先のことだからわからない。
けれど、今は彼女を大事にしようと思う。

……そういえば昨日、学校の七不思議の特集の原稿をまとめた。
七話目をどうしようか迷ったが、さすがにあの部室での出来事は書けなかった。
仕方ないので代わりに、『七つ目の話を聞くと悪いことが起きる。だから、ここに書くことはできない』
と、記しておいた。

学校の七不思議をすべて聞くと悪いことが起きる……。
そういう噂は、どこの学校にもあるようだから。
僕は、あのときの出来事を、今後、誰にも話すことはないだろう……。


       (新聞部エンド)