学校であった怖い話
>七話目(風間・岩下)
>R7

「うん」
僕は、催眠術にでもかかったようにうなづいていた。
それからはっと気づいた。
この子はかなり変な子なんだっけ。
僕ができないようなお願いなんていってこないよな。

「嬉しいな。えーっとね、私とキスをしてくれないかな。坂上君とのいい思い出にしたいの」
元木さんはうつむいていった。
彼女は、僕の制服のすそを引っ張っている。

…………………………そうか、こういう形で攻めてきたな。
元木さんは、けっこうかわいい子だからまあいいか。
あんな顔でいわれたらちょっと決心がぐらつく。
僕も、キスをするのは初めてじゃないし。

ここは一つ、割り切っていくしかない。
僕は、うなづいて彼女の肩をつかんだ。
彼女は目を閉じて、僕を受け入れる体勢になっている。

そして、僕は彼女の小さな唇に口づけた。
彼女の脈打つ音と、僕の脈打つ音が一つになったような気がした。
「…………!?」
僕はなにか嫌なものを感じ、彼女から離れようとした。

しかし、彼女はものすごい力で僕に手をからめているので離れられない。
というよりも、僕の唇が彼女の唇から離れない。
そして、僕の口の中に彼女の口からなにか得体のしれないものが入り込んでくる。

僕の口は、その得体のしれないものでいっぱいになった。
もう、こらえきれない……。
「ごくっ……」
僕は、思わずそれを飲み込んでしまった。
元木さんが、やっと僕から離れていく。
彼女は、さっきの泣き顔から一転して満面の笑みを浮かべていた。

「ねえ、坂上君。私、やっぱりあなたのことを忘れられそうにもないみたい。……やっぱり、あなたのことを忘れるなんてできない。だから、あなたのことをね、私と同じふうにしちゃった。

……私の中のおじいちゃんやおばあちゃんを、坂上君にも分けてあげたの。だから、私たち別れられないの。……どんなことがあってもね。
それでね、これからもっと坂上君のこと知りたいなぁ、なんて……」

……ひどい、なんてことをしてくれたんだ!
僕は一生、福沢さんのおじいさんやおばあさんの霊を、体の中に住まわせることになるのか!?

そんな気持ち悪いことできないよ。
「あっ、ほら。今、坂上君の口からおばあちゃんがのぞいていたよ。ほらほら、手を振ってる。きゃはっ」
元木さんが、僕の口に向かって手を振り返している。
こんなことって……。


       (新聞部エンド)