学校であった怖い話
>隠しシナリオ2(田口真由美)
>A10

今年の夏に、長い間行われていた工事が終わり、旧校舎にあった場所に第二体育館が完成するの。それに合わせて恐怖ネタをやりたいということになったんだけど。
先輩に見込まれて、まだ一年生で新人の私が、その担当に選ばれてしまったわけ。

けれど、どんな怖い話がこの学校に伝えられているのか私はよく知らないし。
そこで、学校の七不思議にまつわる話を知っている人たちを、先輩が部室に集めてくれることになったのよ。
先輩は用があってこれないらしく、実際には私が仕切らなくちゃならないの。

集まった七人が誰なのか、会ってみるまでわからないし、ちょっと不安。
今日の放課後、部室にその七人が集まる約束なんだけど。
私は、けっこう怖い話が好きなんだけれど、どちらかというと臆病かもしれない。

今日は、どんよりとした灰色の雲が空一面を埋めつくし、いつ雨になってもおかしくない天気。
吹く風もジメッとしていて、肌にまとわりついて離れないわ。

何でこんな日に、薄暗い部室で怖い話を聞かねばならないのか、私はかなり気が重かった。
それでも、自分の意志とは反対に足が部室のほうへ勝手に向かっているのは、心のどこかで怖い物見たさという思いがあるからかもしれない。

部室のドアを開けると、いっせいに十二個の目が私に向けられた。
部室の真ん中におかれた大きなテーブルを囲むようにして、六人の男女が静かに座っている。
あまりの静けさに、私は部室のドアを開けるまで誰もいないと思ったほどだった。

六人は、私を確かめるとテーブルの一点を注目するように顔を落としちゃった。
私の知っている顔は、一人もいない。
学校が大きいから、同学年でも見たことのない顔があっても不思議じゃないけど。

集まっている六人も、雰囲気からそれぞれが見ず知らずのように思えるわ。
六人?
先輩の話では、七人に声をかけるということだったわよね。
ということは、まだ一人来ていないのかしら。
私は、とりあえず空いている席に座った。

誰がしゃべるということもなく、何とも気まずい無言の時間が過ぎていく。
私が話せばいいのだけれど、何とも話しづらい雰囲気だし。
みんな下を向いたまま、ぴくりとも体を動かさない。
そして、来るべきはずの七人目も一向に来る気配がない。

ただ、いたずらに時間だけが過ぎていく。
いつまでもこうしていても、どうしようもないわね。
「……あのう、皆さん、お忙しい中集まっていただいたと思いますのでそろそろ始めたいと思うのですが」

私は、思い切って声をかけてみた。
「七人集まると聞いていたんだけれど、君が七人目なのかい? それとも、君は僕たちの話を聞く新聞部の人なのかい?」
中の一人がうつむいたまま、目だけを私のほうに向けてぼそりと呟いた。

なんて陰気そうな人だろう。
私は、彼に見られただけで、背筋が寒くなるのを覚えた。
「はい。私は新聞部の田口真由美といいます。
今日は、皆さんの話をお伺いするように、先輩の坂上さんからいわれています。
よろしくお願いします」

私が答えると、みんなは気味の悪い笑みを浮かべたの。
そしてそれきり、何も話してくれない。
何なのかしら、この人たち。
まるで、生きていないみたい。
「……あのう、どうでしょうか? このまま待っていても仕方がないので、そろそろ始めませんか?」

私は、しびれを切らしもう一度尋ねた。
「いいですよ」
一人がいい、残りの人たちはゆっくりと頷いた。
いったい、彼らはどんな怖い話をしてくれるのだろうか?

部室の空気が妙に重く、肩にのしかかっているような気がしたのは私だけだろうか。
立て付けの悪い窓から漏れる生暖かい隙間風が、私の頬をなめるように吹いている。

何か得体の知れない気味の悪いものがここにいて、何かが起きるのを待っているように思えてならない。
そんな言い知れぬ恐怖を感じさせる何かが、ここにはある。
なぜかしら。
なぜ、そんなことを思うのかしら。

息をするのさえ苦しく思える。
こんな気持ちは初めて。
私は、そんな思いを断ち切るようにして、大きな声でいった。
「それでは、始めましょう」
まだ見ぬ七人目を待たずして、集められた六人の学校であった怖い話が始まった。


その後の
学校であったい話


そして恐怖は繰り返す
              完